ニュースレター22号が完成しました。是非ご覧下さい。
2019年12月27日
研究エッセイ「シカの大地・北海道」
森林圏ステーション 苫小牧研究林 揚妻 直樹
動植物エッセイ「コンペイトウ」
水圏ステーション 臼尻水産実験所 宗原 弘幸
Photo Gallery
フィールドエッセイ「北大農場におけるカバークロップの研究」
耕地圏ステーション 生物生産研究農場 平田 聡之
新任教員紹介
水圏ステーション 厚岸臨海実験所 鈴木 一平
北方生物圏フィールド科学センターへの要望
大学院農学研究院 上田 宏一郎(センター外運営委員)
編集後記
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ニュースレター21号が完成しました。是非ご覧下さい。
2019年6月28日
研究エッセイ「湿地の保護・保全に欠かせない基盤情報「湿地目録」を作成する」
耕地圏ステーション 植物園 冨士田 裕子
フィールドエッセイ「雪の表情」
森林圏ステーション 中川研究林 野村 睦
動植物エッセイ
水圏ステーション 室蘭臨海実験所 本村 泰三
新任教員紹介
水圏ステーション 七飯淡水実験所 山崎 彩
Photo Gallery
今後開催するイベントなどのお知らせ
編集後記
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ニュースレター20号が完成しました。是非ご覧下さい。
2019年3月11日
巻頭言
センター長 佐藤 冬樹
FSCトピック「甚大な台風被害を受けた和歌山研究林」
研究エッセイ「長寿の秘訣 ~地球上の最長寿生物「ナラタケ菌類」の三つの秘密~!」
森林圏ステーション 南管理部 車 柱榮
フィールドエッセイ「ジャイアントミスカンサスの道内への普及を目指して」
耕地圏ステーション 生物生産研究農場 山田 敏彦
北方生物圏フィールド科学センターへの要望
北海道大学病院 松野 吉宏(センター外運営委員)
Photo Gallery
編集後記
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国立生態院(大韓民国)と 交流協定を締結
2018年11月9日
11月6日(火)に,本センターと国立生態院(大韓民国)は,両者の研究上の協力と学術交流の促進を図るため,交流協定を締結しました。
国立生態院は,世界的な生態学研究を基に自然環境の保全と生態文化の拡大を図り,持続可能な未来の構築に寄与するための機関として,忠清南道に2013年開院され,生態研究,生態系に及ぶ危機管理・研究,生態教育,生態展示,研究協力,地域協力の6つの柱により活動を行っています。研究員は現在約100名。世界5大気候帯の展示館があるエコリウムは多数の来場者がある観光スポットにもなっています。また,これまでに3か所の長期生態学研究サイトを設定し,今後さらに3か所が設定される予定です。
両者においては,今後,研究者交流の推進,共同プロジェクト研究の実施のほか,合同学術交流シンポジウムの相互開催の計画が予定されており,森林や環境保全研究に関する学術交流の促進,東アジアを中心とした野外研究や共同プロジェクト研究等の円滑な推進を図ることが期待されています。
また,韓国のメディアにも紹介されました。
エコメディア
イーデイリー
太田日報
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耕地圏ステーション生物生産研究農場荒木肇先生が「ひらめき☆ときめきサイエンス推進賞」を受賞
2018年8月21日
本センター耕地圏ステーション生物生産研究農場 荒木肇先生におかれましては,このたび,独立行政法人日本学術振興会から「平成30年度ひらめき☆ときめきサイエンス推進賞」を授与されました。
この賞は,科学研究費助成事業(科研費)による研究成果を,小・中学生や高校生に体験・実験・講演を通じて分かりやすく紹介する日本学術振興会の事業である 「ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へ~KAKENHI~」 において,継続的にプログラムを実施している研究者に授与されるもので,本学からは,荒木教授が受賞しました。
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ニュースレター19号が完成しました。是非ご覧下さい。
2018年6月29日
動植物エッセイ 「ミズナラもふるさとがやっぱりあずましい」
森林圏ステーション 南管理部 門松 昌彦
研究エッセイ「親とは違う種類の子供を産む魚」
水圏ステーション 七飯淡水実験所 山羽 悦郎
フィールドエッセイ「自然エネルギー研究からの学び」
耕地圏ステーション 生物生産研究農場 荒木 肇
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北方生物圏フィールド科学センターへの要望
大学院農学研究院 研究院長 横田 篤(センター外運営委員)
今後開催するイベントなどのお知らせ
編集後記
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【小学5・6年生、中学生、高校生対象】ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へ~KAKENHI(研究成果の社会還元・普及事業)開催のお知らせ【主催:北方生物圏フィールド科学センター】
2018年6月1日
「科研費」(KAKENHI)により行われている最先端の研究成果に、小学5・6年生、中学生、高校生の皆さんが、直に見る、聞く、触れることで、科学のおもしろさを感じてもらうプログラムです。
参加する皆さんが将来に向けて、科学的好奇心を刺激してひらめき、ときめく心の豊かさと知的創造性を育む内容となっています。生物・農学・自然分野のいろいろなプログラムを用意しています。
興味と関心のある小学5・6年生、中学生、高校生のご参加をお待ちしています。
プログラムへの申し込みはこちらから
http://www.jsps.go.jp/hirameki/index.html
日本学術振興会ホームページ「ひらめきときめきサイエンス」で検索
ご不明な点は、下記までお問い合わせください。
北海道大学北方生物圏フィールド科学センター 学術協力担当
電話:011-706-2572 FAX:011-706-4930
メール:kyoryoku□fsc.hokudai.ac.jp(□をアットマークに置き換えて送信してください)
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ニュースレター18号が完成しました。是非ご覧下さい。
2018年1月24日
動植物エッセイ 「エンビセンノウ-”湿原の花火”を消さないために」
耕地圏ステーション 植物園 中村 剛
研究エッセイ「海のしきさい」
水圏ステーション 厚岸臨海実験所 伊佐田 智規
フィールドエッセイ「ドングリを拾い続けてわかる長期観測の重要性」
森林圏ステーション 北管理部 植村 滋
北方生物圏フィールド科学センターへの要望
大学院 情報科学研究科 研究科長 宮永 喜一(センター外運営委員)
新任教員紹介
水圏ステーション 室蘭臨海実験所 市原 健介
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今後開催するイベントなどのお知らせ
編集後記
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様似プロジェクト(通称)報告書「アポイの森と海とのつながり」
2017年6月8日
文部科学省科学研究費助成事業(2012年度~2015年度、通称:様似プロジェ クト)による「カンラン岩流域と森林形態が物質フローおよび陸域・ 沿岸域生物資源に与える影響」の報告書、「アポイの森と海とのつながり」が出来ましたので公開いたします。
画像をクリック
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ニュースレター17号が完成しました。是非ご覧下さい。
2017年5月30日
研究エッセイ 「桃栗三年柿八年、森林動態四十年」
森林圏ステーション 苫小牧研究林 日浦 勉
動植物エッセイ「北海道和種馬とミヤコザサ」
耕地圏ステーション 静内研究牧場 河合 正人
フィールドエッセイ「小手先のフィールド実験からの脱却」
森林圏ステーション 苫小牧研究林 岸田 治
北方生物圏フィールド科学センターへの要望
大学院薬学研究院 創薬科学研究教育センター・薬草園 乙黒聡子、 前仲勝実(センター外運営委員)
今後開催するイベントなどのお知らせ
編集後記
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母子里と出会う旅 2017冬 4月23日(日)
2017年4月12日
雪の中にある春を見つけにいこう
日時:2017年4月23日 10時~17時
集合場所:幌加内町母子里コミュニティセンター
定員:25名
参加費:こども500円・おとな1000円
申し込み締め切り:4月20日 (要事前申し込み)
詳しくは下記ファイルをダウンロードしてください。
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- 雨龍研究林
平成27年度の年報が発刊しました
2017年2月7日
北方生物圏フィールド科学センター 年報 平成27年度(April 2015~March 2016)
目 次
北方生物圏フィールド科学センターの教育研究動向
各施設の教育研究動向
研究業績一覧
施設等の利用状況
教育利用
刊行物
受賞の記録
公開講座・講演会
講演活動
諸会議開催状況
歳入と歳出の概要
職員名簿
機構図
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ニュースレター16号が完成しました。是非ご覧下さい。
2017年1月18日
研究エッセイ 「ハンノキとフランキアをめぐる旅」
森林圏ステーション 雨龍研究林 内海 俊介
動植物エッセイ「オットセイ?アザラシ?」
水圏ステーション 生態系変動解析分野 三谷 曜子
今後開催するイベントなどのお知らせ
フィールドエッセイ「世界一の放牧地から」
耕地圏ステーション 生物生産研究農場 三谷 朋弘
新任教員紹介
頼末 武史(よりすえ たけふみ):水圏ステーション 厚岸臨海実験所・特任助教
北方生物圏フィールド科学センターへの要望
大学院歯学研究科 八若 保孝(センター外運営委員)
新任教員紹介
南 憲吏(みなみ けんじ):水圏 臼尻水産実験所・特任助教
編集後記
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採用情報 生物生産研究農場・技術職員(正規職員)
2017年1月11日
生物生産研究農場・技術職員(正規職員)の公募を行っております。
詳しくは公募要領をご覧ください。
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- 耕地圏ステーション
- 生物生産研究農場
採用情報 森林圏ステーション・技術職員(正規職員)
2016年12月28日
森林圏ステーション・技術職員(正規職員)の公募を行っております。
詳しくは公募要領をご覧ください。
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- 森林圏ステーション
採用情報 教育関係共同利用拠点水圏ステーション(厚岸臨海実験所)・特任助教
2016年12月19日
下記の要領により,文部科学省教育関係共同利用拠点「寒流域における海洋生物・
生態系統合教育の国際的共同利用拠点」に関わる特任助教の公募を行っております。
詳しくは公募要領をご覧ください。
公募要領
公募要領(英語版)
研究業績目録様式
研究業績目録様式(英語版)
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- 厚岸臨海実験所
採用情報 教育関係共同利用拠点水圏ステーション(室蘭臨海実験所)・特任助教
2016年11月18日
下記の要領により,文部科学省教育関係共同利用拠点「寒流域における海洋生物・
生態系統合教育の国際的共同利用拠点」に関わる特任助教の公募を行っております。
詳しくは公募要領をご覧ください。
公募要領
公募要領(英語版)
研究業績目録様式
研究業績目録様式(英語版)
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- 室蘭臨海実験所
ニュースレター15号が完成しました。是非ご覧下さい。
2016年9月8日
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研究エッセイ 「スルメイカの卵塊を追って」
水圏ステーション 生態系変動解析分野 山本 潤
動植物エッセイ「どうなるスズタケ?」
森林圏ステーション 苫小牧研究林 中路 達郎
フィールドエッセイ「森林の林冠と林床」
森林圏ステーション 中川研究林 福澤 加里部
今後開催するイベントなどのお知らせ
新任教員紹介
河合 正人(かわい まさひと):耕地圏ステーション静内研究牧場・准教授
中村 剛(なかむら こう):耕地圏ステーション植物園・助教
編集後記
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ホームカミングデー2016について
2016年9月1日
本事業は,同窓生同士が学部・学科や地域そして年代の枠を超えて札幌キャン
パスに集い旧交を温めるとともに,本学の取組み等を理解していただく機会を設
けることにより,同窓生の方々と北海道大学の連携を強めるために実施しており
ます。今年度も関係各位の協力の下,平成28年9月24日(土)に実施いたし
ます。
本学では例年どおり歓迎式典や講演会を行う予定です。部局行事として,本セ
ンターのほか同窓会主催行事も多数ご用意しておりますので,多くの教職員のご
参加を心よりお待ちしております。
※9月23日(金),9月25日(日)に開催する行事もございます。詳しくは
ウェブサイトをご覧ください。
(北海道大学ホームカミングデー2016ウェブサイト)
http://www.hokudai.ac.jp/home2016/
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臼尻水産実験所宗原弘幸先生と忍路臨海実験所四ツ倉典滋先生が「ひらめき☆ときめきサイエンス推進賞」を受賞
本センターの臼尻水産実験所の宗原弘幸先生と忍路臨海実験所の四ツ倉典滋先生
におかれましては,このたび,独立行政法人日本学術振興会から,「平成28年度
ひらめき☆ときめきサイエンス推進賞」を受賞されました。
この賞は,科学研究費助成事業(科研費)による研究成果を,小・中学生や高校
生に体験・実験・講演を通じて分かりやすく紹介する日本学術振興会の事業である
「ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へ~KAKENHI~」
において,継続的にプログラムを実施している研究者に授与されるもので,本学か
らは,センターの2氏が同時受賞となりました。
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Newsletter #22-4 新任教員紹介
2019年12月25日
水圏ステーション 厚岸臨海実験所 鈴木 一平
経歴:東京大学大学院(新領域創成科学研究科・自然環境学専攻)博士後期課程修了。博士(環境学)。専門は海棲哺乳類の行動生態学、潜水生理学。東京大学(大気海洋研究所・特任研究員)、北海道大学(北方生物圏フィールド科学センター・博士研究員)等を経て、平成30年11月より現職。
はじめまして、2018年11月に文部科学省教育関係共同利用拠点の特任助教として厚岸臨海実験所に着任しました鈴木一平と申します。海洋生態系における高次捕食者のエネルギーバランスに興味を持ち、これまでは主に鰭脚類(アザラシ科やアシカ科)を対象とした行動生態学の研究を行ってきました。
大学院時代は、小型記録計を動物に搭載するバイオロギング手法を用いることで水中での摂餌行動量や潜水によるエネルギー消費量を定量化するための手法開発に取組みました。水中での彼らの行動を直接観察することは困難ですが、バイオロギング手法により加速度や速度といった行動に由来するパラメーターとして数値化されたデータを取得できます。動物の下顎に取付けた加速度の記録計からは、餌生物を捕食する際の顎の上下運動が記録されます。また、背中に取付けた記録計の速度データと動物の形態情報から、任意の速度で泳ぐために必要なエネルギー消費量を算出できるという理論がありました。国内外で飼育されている鰭脚類を用いてそれら手法の検証実験を行い、野生個体の行動データからエネルギーの獲得量と消費量を定量化する手法を確立させました。学位取得後は、水中採血が可能な機器を用いて潜水時の代謝機構に関する内分泌学的な研究や、鰭脚類だけでなく鯨類も対象とした呼気計測による潜水生理学に関する研究を進めています。
厚岸臨海実験所では夏季を主なシーズンとして、国内外の学部生や大学院生を対象とした約10件の実習が開催されています。実習の規模は数名から20名を超える場合もあり様々で、アマモ場や沿岸域での生物採集、演習船での海洋物理環境の測定を通して、海洋生態系の基盤となる初期生産量の測定法や植物プランクトンから小型魚類までの捕食-被捕食の食物網を実体験によって学べる内容となっています。また、他学部や他大学との共同実習では、海藻類の多様性解析や森と河川と海の関連性解析など、湿原河川から汽水域、海洋まで多様な水域生態系に囲まれた環境で、それぞれの違いと同時に繋がりに関する理解も深められます。体験できる分野が多岐にわたり、私自身も書物でしか見たことがなかったり、全く知らなかった手法を一緒に学ばせていただいています。
陸域からの養分が豊富に流れ込む道東の沿岸域には、定住性の海棲哺乳類も存在します。今年度からは、大黒島や霧多布岬に生息するゼニガタアザラシやラッコを対象とした行動観察を一部の実習のプログラムに組込ませていただきました。高次捕食者による生態系に対するトップダウン効果に関する講義に加えて、「ある生命現象が見られるのはなぜか?」という行動生態学の基礎であるティンバーゲンの4つの問いから、各グループで課題を見つけ、複数ある目視観察の手法からどれを組み合わせることで、自分たちの問いに答えるためのデータを取得できるのかを体験してもらっています。臨海実験所で開催する実習や地元市民を対象としたアウトリーチ活動を通して、高次捕食者の役割や重要性と共に、多様な水域生態系が持つ魅力を一人でも多くの方に伝えられるよう努力していきたいと思います。今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。
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Newsletter #22-3 北大農場におけるカバークロップの研究
耕地圏ステーション 生物生産研究農場 平田 聡之
作物栽培の研究は、収穫物の増収や品質向上を最終目的としていますが、近年では環境に配慮した安定した作物生産への社会的要求が高まってきました。現代では、収量を低下させずに、化学合成物に頼らない、エネルギーや労力をかけない持続型作物生産が望まれています。その中で、圃場の耕うんを最小限にする不耕起栽培や圃場の生物環境や養分サイクルを改善するカバークロップの利用について研究が進められてきました。カバークロップは一般的にはその肥料効果に着目され、狭義の意味で「緑肥作物」として認識されていますが、収穫することを目的としない圃場環境を改善するために植えられる作物の総称を指しています。カバークロップには、土壌有機物の付加による土壌への物理的、化学的、生物的効果に加えて、過剰塩類の吸収による土壌悪化の防止や栄養塩の流亡の防止、特定の病原菌や雑草の抑制、景観向上などの効果があることが知られています。
生物生産研究農場では、これまでトマトのハウス・露地栽培やコムギ栽培体系において、カバークロップの導入効果について調査してきました。北海道の作物栽培体系へカバークロップを導入する場合、大きな問題となるのは栽培可能期間が短いことです。北海道では、一年の1/3が積雪で覆われることから、野外での作物の栽培可能期間が限られています。カバークロップを導入した栽培体系の多くは、主作物の収穫後から次作物の播種までの間の期間にカバークロップを栽培する手法をとりますが、北海道ではそのような期間は2~3ヶ月に限られます。そのため北海道では、間期のカバークロップ(農学用語では後作緑肥といいます)としては初期生育が旺盛なイネ科やアブラナ科の利用が中心であり、窒素固定による土壌への窒素供給やリン吸収を促進する菌根菌の増殖など優れた効果を持つマメ科カバークロップを導入する場合は、主作物との輪作が主流でした。そこで私たちは、冷涼な環境下でも初期生育が早く、窒素固定能力が高いヘアリーベッチ(写真1)に着目し、後作緑肥としての効果を検証しました。また、ヘアリーベッチは大きく二つの生態型に分けられ、初期生育が早いが越冬能力の劣るスムースベッチ型と初期生育が劣るが越冬能力の高いヘアリーベッチ型があることが知られています。主作物収穫後の9月にヘアリーベッチを播種する場合、スムースベッチ型は4月に播種する作物(春小麦など)に、ヘアリーベッチ型は5月下旬以降に播種する作物(多くの畑作物種)にカバークロップとして有効であることがわかりました。
現在は、カバークロップ生育後の積雪下の効果に着目しています(写真2)。スムースベッチ型のヘアリーベッチは積雪下で死亡しますが、これまでの研究から低バイオマスにも関わらず、春先に高い窒素能力と雑草抑制効果があることを認めています。ヘアリーベッチは雑草抑制の効果が高い化学物質であるシアナミドを豊富に含んでいます。また、シアナミドの一部は土壌内で重合し、硝化作用阻害物質であるジシアンジアミドに変化する性質を持っています。これらの物質が積雪下で土壌環境にどのように影響するのか研究を進めています。
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Newsletter #22-2 コンペイトウ
2019年12月24日
水圏ステーション 臼尻水産実験所 宗原 弘幸
“金平糖”。令和天皇即位の儀式で招待客への引き出物に入っていたという、あのイボイボの砂糖菓子のことです。特異な形状から生き物を表す場面でよく使われています。たとえばヤリガジの卵。写真を用意しましたが、金平糖のような形状と記すだけで、イメージしてもらえるでしょう(写真1)。この形状は、卵と卵の間を広げて、胚への酸素供給効率を高くするのに役立ちます。尖ったイボでは、産卵までは間違いなく邪魔です。一般的な魚類同様に、卵巣のなかでは卵は球形で、イボができるのは産卵のあとからです。イボができる仕組みは、高張の海水に触れることと関係していますが、その先は調べていません。それがわかって何の役に立つの?そんな突っ込みを嫌ったわけではなく、2011年にロシアの標本に基づき新種記載され、その翌年に臼尻で見つかった希少種なので、見つけてもそっとしておきたいからです。
ずばり、コンペイトウと名付けられた魚もいます。こちらはやや深みにいるダンゴウオの仲間です。2010年に巻貝の空き殻に産みつけられた卵とその世話をしているコブフウセンウオの雄とともに生きたまま採集されて、臼尻実験所に送られてきました。水産実験所ですので、海産生物の飼育施設があります。そこで卵が孵化した後の稚魚を2年間、育てました。以前から疑わしいことはわかっていました。実際に、一つの卵塊から生まれた稚魚の成長の軌跡を追うと、なんと形態の違いで3つのタイプに分かれました。予想を超えていました。3つのタイプのうちの一つは、典型的なコンペイトウで、体にコブ状の突起が飛び出し背鰭も皮下に埋没しました(写真2)。このような形態の個体はすべて雌でした。雄になった個体は、小さい間は多少のコブがあり、卵の時代に保護してくれた父親そっくりのコブフウセンウオになりました。さらに数か月すると、コブが消えて、ナメフウセンウオと呼ばれている種に変身する個体もあらわれました(写真3)。ダンゴウオの仲間は、皮膚がぶよぶよしている種ばかりで、特徴的なコブが分類の決め手に使われます。しかし、コブが性別や成長段階で変化する場合もあって、同様なケースがこれまでにもありました。この魚は、命名規約の約束事にしたがってEumicrotremus asperrimus が有効名として残り、他の2種につけられていた学名はシノニムとして無効になることを2015年に報告しました。E. asperrimus は、標準和名にコンペイトウと付けられている種です。覚えやすい名称が残るのはよかったのかも知れませんが、イボイボを持たない雄もコンペイトウと呼ばれることになります。御用達の金平糖でも製造過程でバッタもんは出るようですから、まあいいか。
(写真はいずれも阿部拓三博士)
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Newsletter #22-1 シカの大地・北海道
森林圏ステーション 苫小牧研究林 揚妻 直樹
蝦夷地が北海道に改名されて150年が経ちました。節目の年にあたり、様々な関連イベントが開催されました。北海道の名付け親とされる松浦武四郎の足跡をたどるドラマや特集番組も放映されています。その武四郎が北海道中を探検していた頃、そこには一体、どんな自然が広がっていたのでしょうか?そして、エゾシカやヒグマなどの野生動物はどんな暮らしをしていたでしょうか?
私は当時の北海道に、どのくらいシカが棲んでいたか推定してみました。1873年から1882年まで、シカの年間捕獲数の記録が残っていたので、いったい何頭のシカが存在すれば、そんなふうな捕獲数が実現可能かを計算してみたのです。その結果、1873年時点で50~70万頭となりました。ただ、この値には当時、闊歩していたオオカミたちが捕食したシカの数や、温暖化以前の厳しい冬によって今以上に死んでいたシカの数が含まれていません。これらの死亡要因も考慮すると、実際にはこの値よりはるかに多くのシカが棲んでいたのは確実です。100万頭近く居たのかもしれません。一方、近年のエゾシカの生息数は50~60万頭と推定されているようです。つまり、もともとの北海道の自然からすれば、現状のシカの数は決して多くないのです。ところが、現在シカは増え過ぎてしまい、生態系を不自然に改変していると考えられています。現状認識に大きなギャップがあります。
そんなにシカが多かった150年前の自然はどんな姿をしていたのでしょう?それは北海道本来の生態系や生物多様性の保全を考える基礎となります。北海道では高山や湿地などを除けば森林に覆われると考えがちです。ところが、1858年に武四郎は美瑛から富良野にかけて20×48kmの草原が、十勝には40×60kmのすすき原が広がっていたと記録しています。そんな大草原はどうやって成立したのでしょう?アイヌの人々が意図的に草地を作っていたと考える方もいるかと思います。しかし、農耕や牧畜を大規模に行っていなかった彼らが大草原を作る理由は見あたりません。その時代に大量のシカが生息していたことを考えれば、その高い採食圧によって森林が発達せず広大な草原が維持されていた可能性があります。
では、森はどうだったでしょうか?シカが多かった頃の影響が残っている1930年の支笏湖御料林の壮齢林の構造が調査されています。その森林では優占種のエゾマツは太さ30~40cmの木が最も多く、それより小さな木が少ない、いわゆるベル型と言われる構造をしていたのです。現在、ベル型構造は更新が阻害された“不健全”な森の特徴とみなされています。しかし、もともとの森林はベル型構造で維持・更新されていた可能性がありそうです。“健全”な森林構造についても見直す必要が出てくるかもしれません。
この50~60年間、森林動態や生物多様性について多くの知見が集められてきました。実はその期間の大半が日本中でシカがとても少なかった時代にあたります。つまり、研究者は植物にとって捕食者不在の生態系を精力的に調べていたわけです。しかし、かつてのようにシカが多いのが普通の自然だとしたら、既存の知見だけでは本来の自然の姿を理解することはできないでしょう。
苫小牧研究林では森の中に柵を設置してシカを排除したり、高密度化させる実験を15年間継続してきました。シカ排除実験はシカの生態系機能を解明するのに有効なので、各地で行われてきました。大抵の場合、シカ排除区と比べ、シカ生息区で植物量が減少し、種組成も変ってきます。そこから、シカがいかに生態系に悪影響をもたらすかという議論をしがちです。でも、生態系の構成要素であるシカを全くいなくしたシカ排除区は明らかに不自然な状態です。そこと違うからと言って、悪影響だと判断するのは原理的に不可能です。むしろ、これからはシカが棲んでいる区画において、シカが多かったころの自然の姿をどうやって理解していくかが、生態学としての課題になってくるでしょう。
苫小牧研究林のミズナラ林に設定したシカ排除区(左)、自然密度区(中)、高密度化区(右)の植生
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Newsletter #21-4
2019年6月5日
水圏ステーション 室蘭臨海実験所 本村 泰三
今年も暖かい春になり、室蘭の海も例年通り沢山の色とりどりの海藻が目に付くようになった。まだ若く小さなコンブやホンダワラも順調に生育している。海藻研究の醍醐味の一つは、生活環制御であると思ってきた。例えば、褐藻コンブ類は巨視的な胞子体と微視的な雌雄配偶体の世代が交代する。我々が親しんでいるコンブは胞子体で、北海道室蘭では9月から12月にかけて成熟し、減数分裂を経た後に、長さ10ミクロンにも満たない遊走子が放出される。遊走子は鉄を含まない人工合成培地中でわずか数mmの小さな糸状の雌雄配偶体に発生し、直径約20ミクロン程度の卵と5ミクロン程度の精子による有性生殖は行われる。この受精卵が1年も経たないうちに長さ数メートルの胞子体に成長する。このサイクルのどこかが断線すると所謂コンブは生まれない。
陸上と異なり、海中では可視光の中で短波長の青色光が深所まで到達できる。そのため、海中はブルーワールドとなる。褐藻や珪藻が属するストラメノパイル系統群(遊泳細胞が長短2本の鞭毛を有し、長い前鞭毛に細かい毛を有する真核細胞の一つのグループ)では、一連の形態形成において青色光はキーとなる。例えば、上述したコンブの雌雄配偶体が成熟するには、鉄とともに青色光が必須となる。数年前に、この青色光受容体タンパク質としてオーレオクロームが発見された。また、多くの褐藻の遊走子や配偶子は青色光に対して正または負の走光性を示すが、この場合の受容体タンパク質として鞭毛に存在するヘルムクロームが発見されている。青色光刺激に対する海藻のレスポンスは、生命が海洋において誕生し様々な生物に変化したことを考えると理解できる。このような刺激反応の分子メカニズムは、結局は陸上生物に受け継がれていくことになる。
また、波あたりの強い沿岸域を生活の場としている海藻は、それに適応した細胞壁多糖を有している。硬いセルロース繊維含量は少なく、紅藻では寒天やカラゲナン、褐藻ではアルギン酸とフカン、緑藻でも硫酸化された独特な多糖類を有している。これにより、海の中で波にまかせたしなやかな動きを生み出している。近年のゲノム情報解読から、褐藻のアルギン酸合成経路は緑膿菌などからの遺伝子水平伝搬であろうと推定されている。
2010年、2015年に褐藻シオミドロとマコンブの全ゲノム情報が明らかになった。現在では、フランス・ロスコフ臨海実験所のメンバーを中心に50種類を超える褐藻のゲノムを明らかにする国際的プロジェクトが進行しており、数年のうちに発表されるはずである。海藻が持つユニークな性質や環境適応能力に関して分子レベルで解明できる時代がそう遠くない未来に訪れる。
写真は、モニタリング1000でお世話になっている瀬戸内海区水産研究所の島袋寛盛博士に提供して頂いた。
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Newsletter #21-3 雪の表情
2019年5月27日
森林圏ステーション 中川研究林 野村 睦
北海道北部は、最大積雪深が2メートルを超える豪雪地帯で根雪期間も半年に及び、積雪が森林や水循環などに大きな影響を与えています。このため、雨龍研究林で冬季に行なわれている農学部森林科学科の実習では、森林の調査のほかに積雪の観測が組み込まれています。積雪調査は、まずは穴を掘り断面を作ることが始めです。そうすることで、地層を観察するように積雪の堆積状況を知ることができます(写真1)。
豪雪地帯は北海道北部に限りません。本州では北陸以北の日本海側は積雪量で言えば北海道を超える多雪域です。山形大学の上名川演習林もそのような場所にあり、そこでは同大農学部が積雪を調べる実習を行なっています。筆者は、ここ数年、その実習に参加し調査に協力してきました。やることは同じ、とにかく学生にはがんばって穴を掘ってもらうことです(写真2)。
穴を掘ってみると、北海道と山形では雪粒子の形(雪質)が大きく異なり断面の様相がだいぶ違うことがわかります。山形の積雪は、北海道北部では融雪後期に見られるような粒の大きな「ざらめ雪」が大半を占めています。厳冬期に気温がほとんどプラスにならない寒冷地の積雪は、「新雪」の状態から、粒子が丸く圧縮された「しまり雪」を経て、春になり水を含んで肥大化した「ざらめ雪」へと雪質が変わっていきます。ところが、冬であってもプラスの気温や雨が珍しくない地域では、一気に「ざらめ雪」になるようです。積もりながら解けるとも言えるかもしれません。1月の日最高気温の平均をみると、雨龍研究林は-5℃、上名川は+1℃程度です。
もちろん、初めて山形大の実習に参加する前から、「ざらめ雪」が多いであろうことは、気象データからも十分に予測していました。が、予測を超える「ざらめ雪」状態でした。真冬の雪解けや降雨の予測、あるいはそれに由来する水による積雪への影響は扱いが難しい問題です。その水が土壌面まで水が到達すれば、洪水や地すべりにも関わり、温暖地の積雪域では注目されている現象です。北海道北部の場合、真冬であれば積雪が寒冷なため多少の水であれば積雪内ですぐに再凍結してしまい、今のところあまり問題にはなっていません。
ここまで、北海道北部と山形の積雪について、穴を掘って調べてみたその内面をお話しましたが、穴を掘るまでもない外面の違いもあります。雪のない地域から山形を訪れた人ならば雪面の白さを強く感じるでしょう。しかし、北海道の人はそうではないかもしれません。後者には一理あります。雪は水を含むと日射の反射率が大きく下がるからです。まぶしさに欠けるといった感じでしょうか。冬季の気候が温暖化に向かえば、外面であれ内面であれ北海道の雪の表情が変わるかもしれません。
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Newsletter #21-2 湿地の保護・保全に欠かせない基盤情報「湿地目録」を作成する
2019年5月20日
耕地圏ステーション 植物園 冨士田 裕子
近年、人間活動による湿地の消失や劣化、生態系の攪乱などが急速に進行し、湿地は世界中で危機的な状況におかれている。地球上の湿地の64%から71%は20世紀に失われたと推定され(Davidson 2014)、今なお世界各地で消失と劣化が続いている。日本も同様で、本州以南の沖積平野や盆地に存在した湿地の多くが、古くから水田や宅地へと転換され消失してきた。現存湿地面積の9割近くが集中する北海道においてさえ、元の面積の約7割が明治時代に始まった開拓や大規模農地開発などで消失している(図1)。
湿地は生物多様性のホットスポットの一つで、水質改善、洪水等における緩衝作用、炭素の貯蔵、地域特有の景観を形成するなど、多くの利点や機能を持つ重要な生態系である。世界的にも湿原の保護と保全、再生は、人類共通の喫緊課題となっている。ところが、湿地の保護・保全に欠かせない基盤情報である、「どこに、どんなタイプの湿地が、どれだけの面積存在するのか」を明示する湿地目録(wetland inventory)が作成され、さらに生息する生物の情報、水文や土壌、水質などの物理化学的な環境要素情報、保全のための法的規制等の指定状況といった様々な情報を整備したデータベースが構築されている国は多くない。日本にも実は、信頼できるレベルの目録は存在していない。
そこで1997年に湿地研究者が主体となって北海道湿地目録を作成した(冨士田ほか 1997)。既存の資料、文献、報告書、聞き取り調査などから北海道内の面積1ha以上の湿地をリストアップし、面積、標高、湿地タイプといった基礎情報に加え、湿地の保護状況などの情報を含む目録である。しかし、北海道湿地リスト1997も湿地の範囲については不正確で、実際は土地開発により面積が減少していたり、乾燥化によってもはや湿地ではない場所も含まれているなど、現実に即した確認作業が必要とされてきた。湿地範囲が不正確だったのは、撮影年が古いモノクロ写真を多数使用したこと、判読経験値の異なる複数の人間が湿地範囲を判定したことが原因と考えられた。一方、2005年以降、解像度の高い無償の空中写真の公開、国土地理院地図の公開、有償のカラー空中写真の充実などにより、これらをGIS上で組み合わせることで、湿地の判読精度は以前とは比較にならないほど向上した。
そして、試行錯誤しながら数年かけて新しい「北海道湿地目録2016」を作成した。新しい目録では、1997版で150箇所だった湿地は、180箇所に増えた。これは、山岳地域の人の目に触れない湿地などを、空中写真で確認・抽出することができたからである。また、データベースを活用して保全状況や健全性を評価したり、他のGISデータとの組み合わせで湿地とその周辺地域の土地利用上のリスクを評価するなど、様々なことが出来るようになった。
湿地目録の作成は、地味で根気のいる作業だが、研究成果としてはなかなか評価されない。しかし誰にでも作成できるものではなく、湿地を知る研究者主体でないと作れない。湿地の保全や施策立案に大いに寄与する目録が完成して、湿地研究者としては胸をなでおろしている。
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Newsletter #21-1 新任教員紹介
2019年4月26日
水圏ステーション 七飯淡水実験所 山崎 彩
経歴:北海道大学大学院環境科学院生物圏科学専攻博士後期課程修了。博士(環境科学)。専門は魚類の分子系統、進化学。日本学術振興会特別研究員、東北大学博士研究員、北海道大学学術研究員を経て平成30年7月より現職 。
初めまして。平成30年7月に文部科学省教育関係共同利用拠点の特任助教として七飯淡水実験所に着任しました山崎彩と申します。私はこれまで、北の海に生息するカジカ類の分子分類や寒冷地適応の研究を行ってきました。また、国内河川に生息するニホンウナギの保全に関する研究も行っています。
学生時代には臼尻水産実験所で6年もの歳月を過ごし、季節を問わず研究のために北の海に潜ってはカジカ採集に明け暮れました。海氷や流氷に覆われる海域では、不凍対策をもたない種に環境中の氷核が作用すると、体細胞中の水分が凍結し、死んでしまいます。しかし、寒帯〜亜寒帯に生息する種は、不凍タンパク質の発現により体細胞内にできた氷核の成長を抑制するため、氷が存在する海域でも生存できるのです。学位取得時には、世界各地で冬季に採集したカジカ類の筋肉中に含まれる不凍タンパク質の活性測定に加え、各種が発現させている不凍タンパク質の遺伝子配列を決定することで、カジカ科魚類の寒冷適応を明らかにしました。また、ダイビングで撮りためた水中写真を使って生き物図鑑を作成したり、イカの着ぐるみを作って子供たちへの科学教育に使用したりと、アウトリーチ活動にも力を入れました。他にも、人工イクラ作りや煮干しの解剖、クジラの食性等の出前授業も行いました。これらの活動は、子供たちに科学に対して興味を持ってもらいたいとの思いから自主的に取り組んできました。
最近は、環境DNA手法を用いて国内河川におけるニホンウナギの分布域を特定する調査・研究に携わっています。近年マリアナ海溝での産卵場が特定されたばかりの本種ですが、実は国内河川での分布域すら明らかにされていません。環境DNAによる生物の分布調査は近年急速に発展した研究手法です。環境中に存在する微量のDNAやその断片を検出するため、例えば水を汲むだけで、その周辺に生息する種を特定できます。この技術は生物を直接捕獲する必要がないため、絶滅危惧種や捕獲が困難な種の分布調査、あるいは生物相調査に利用されています。生物の採集には多大な労力と種判別の専門知識を要しますが、環境DNAはより簡便に行うことができます。今後はこの手法を本拠点の実習に取り入れ、実習生らに最先端の研究を体験してもらいたいと考えています。
七飯淡水実験所・臼尻水産実験所・忍路臨海実験所で行われる実習は発生工学からバイオロギングまで取り扱う分野が幅広く、私自身未知な分野もあるため、実習を通して一緒に学ばせていただいています。本拠点を利用する学生らが将来の日本の水産科学を担う人材になりたいと希望してくれることを願いつつ、一人でも多くの学生に水圏生物の魅力を伝えられるよう本拠点の業務に邁進していきたいと思います。今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。
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Newsletter #20-4 ジャイアントミスカンサスの道内への普及を目指して
2019年2月19日
耕地圏ステーション 生物生産研究農場 山田 敏彦
約10年前にはバイオマスのブームがあり、植物資源からバイオエタノールを製造する動きが北海道にもありましたが、いったんブームは静まりました。しかし、最近、バイオマスが話題に上るようになってきました。人類が直面している温室効果ガス削減の対策には、バイオマスの積極的な利活用がやはり不可欠です。低温条件でも高いバイオマス生産が可能で、肥料がほとんど不要であるなどの利点から、寒冷地のバイオマス資源作物としてススキ属(Miscanthus)が近年、注目され、特に、二倍体のススキ(M. sinensis)(2n=38)と四倍体のオギ(M. sacchariflorus)(2n=76)との自然交雑した三倍体雑種のジャイアントミスカンサス(M. x giganteus)(GM)の栽培面積が欧米では増加してきています。北大農場でもGMを長期間にわたり栽培し、その能力を調査しました。その結果、平均25.6 ±0.2トンha-1 年-1の高い乾物生産を実証できました(写真1)。また、土壌炭素貯留量は1.96 ± 0.82 トンha-1 年-1 であり、森林での値より高く、資源作物としてGMを栽培することにより、温室効果ガスを削減できる機能があることを明らかにしました(Nakajima et al. 2019, Carbon Management)。GMは地上部分が十分に枯れる晩秋から早春にかけて収穫を行います。北海道では冬季多雪地帯であるために、雪解け後に刈取らなければなりません。幸い、GMは風雪が強い冬季間でも倒れない特性があることがわかりました(写真2)。現在、北海道各地に資源作物のGMを普及させることを目指して、各地に試験栽培を開始したところであります。バイオ燃料の原料としての利用にはまだ技術的にハードルが高いため、当面はペレットとしての燃焼利用を考えています。地域に賦存する木質や稲わらなどのバイオマスとGMを混合したペレットの試作なども検討しています。燃料原料以外の用途として、家畜敷料としての利用があげられます。木質バイオマス高騰のため、家畜敷料不足が深刻な問題になっています。また、昨今話題のプラスチック削減のための代替素材としても注目されています。一方、農業の生産現場での従事者の高齢化、労働力不足に伴い、農地条件が悪い場所等で耕作放棄地の増加が予想されています。そのため、農地の有効利用の一つとして、栽培が容易で省力的なGMを栽培し、いろいろなバイオマス資材用途に利用されることを期待しているところです。
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Newsletter #20-3 FSCトピック 甚大な台風被害を受けた和歌山演習林
2019年2月15日
和歌山県にある北海道大学の和歌山研究林は8月23日の台風20号で大きな被害を受けました。林道が30か所あまり崩落し、実習・調査用の資材や用具600点以上が河川の氾濫で流失するという、研究林設立以来もっとも壊滅的な被害でした。
台風20号の猛烈な雨
8月23日、 強い台風20号が和歌山県に接近し、危険回避のため研究林スタッフは全員自宅待機となりました。夜には、周辺で1時間に120ミリ以上の猛烈な雨が降ります。その後、研究林庁舎のある平井集落内の道路が、平行して流れる平井川の氾濫のため、同時に2か所が陥没しました。集落外へのアクセス路3本のうち2本が断たれる非常事態となりました。
雨が収まったのは25日、研究林庁舎と上流部にある研究林を結ぶ国道371号線が崩壊したとの情報がもたらされます。
甚大な被害状況
現在は被害総額を算定中ですが、流失した資材や林道の被害を全て含めると、数千万円単位にのぼる見通しです。
和歌山研究林がある紀伊半島は毎年頻繁に台風が来ます。そのため、台風が接近する可能性があるときは、大水で流されたり、風で飛ばされたりしないよう用具・資材類は、建物や物置の中など安全な場所に避難させます。今回も同様の対応を行っていましたが、それでも甚大な被害となりまいりました。
現在の復旧状況
研究林庁舎がある平井集落と下流にある市街地をつなぐ道は、3本のうち2本が陥没により通行不能になりましたが、9月下旬になってようやく陥没していた1本の仮復旧が完了し、平時とそう変わりのない交通事情へと戻ることができました。
その一方で、上流域にある研究林へのアクセスはいまだ大きく制限されたままです。国道371号線の少なくとも4か所が大きく崩壊しており、自動車で研究林へは近付くことができません。国道の復旧は現在ようやく着工したところで、2019年春頃までには研究林入口まで行われる見通しとなっていますが、研究林内については崩壊の規模が大きく、完全復旧がいつ頃になるのか、未定のままです。
研究林からのメッセージ
今年は台風に限らず悪天候が続き、研究林へ近付くことすらままならない日々が続きました。このため復旧作業はあまり進展していません。ただ、このような状況でも一部の学生実習や野外調査は、研究林スタッフがしっかりと安全管理を行ったうえで受け入れを続けています。研究林スタッフはポジティブな姿勢を持ち続けて前に進んでいることを広く知っていただけるととても嬉しく思います。
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Newsletter #20-2 北方生物圏フィールド科学センターへの要望
2019年2月7日
北海道大学病院 松野 吉宏(センター外運営委員)
北方生物圏フィールド科学センターの外部運営委員を拝命してもうすぐ2年が経過します。平素の業務のうえで直接お世話になることもほとんどなく、貴センターについて知るところの乏しかった小生にとっては、新鮮でもあり、しかしどこか懐かしさや親しみも感じられる発見や気づきの2年間でありました。
貴センターは本学の「本学らしさ」をもっとも色濃く備えている部局のひとつと言えるのではないでしょうか。分野違いから来る無知を恐れず申し上げれば、森林圏、水圏、耕地圏の各ステーションにおいて維持管理されている、北海道なればこその教育・研究環境を生かし、本学らしい魅力ある情報発信や社会への提言、次世代への継承を着実に今後もお進めいただきたいと期待しております。そして国内外の研究者たちにも研究のフィールドとして広く活用されている実情を、学内はもちろん、市民や社会へも上手にアピールしていただきたいと思います。
貴センターの「本学らしさ」は市民にもわかりやすく、北大植物園をはじめ子供たちや一般市民にとってもっとも身近な「北海道大学」もまた貴センターではないでしょうか(その次は北海道大学病院かもしれません)。その立ち位置を生かし、大学が行う高度な学術研究や教育と、市民生活や次代を担う子供たちの憧れとの間をつなぐ役割を大切にしていただきたいと思います。小生自身、小学生のころ函館の実家近くにあった水産学部の、ある若手(だったのでしょう)研究者のもとに訪問させてもらう機会があり、実験ベンチサイドで「プランクトンのお話」から食物連鎖のいかなるものかを聞かせていただきながら、はじめて大学や研究者というものに触れて子供心に覚えた興奮や感激、そしてその場面は半世紀を経過した今でもフラッシュバックしてまいります。現在、貴センターにおかれてもさまざまなアウトリーチ活動が行われているようですが、これからも市民や子供たちに夢を与える開かれたセンターであっていただきたいと思います。
そうは申しても、フィールドの強みを生かした諸活動も現実には採算の取れるものばかりではないようですし、教職員の確保や施設の管理などを含め教育研究環境の維持自体にかかるご苦労も並大抵ではないことも知りました。すでに実績のある自治体はもちろんのこと、過去のある時期とは異なって、地域再生や環境保全などには国内外のさまざまな企業などの関心も増しているのではないかと感じます。今後はそうした社会的なうねりを機敏にキャッチして、研究や諸活動を広い枠組みで展開する機会も増やしていけるのかもしれない、と思うこともあります。
小生も、人並みにストレスフルな日々を過ごしてはときに北大植物園を散策し、深呼吸しながら空を見上げて癒される教職員の一人です。本学の北海道大学らしさが一層輝きを増すように、多少大げさに申せばその象徴と言ってもよいかもしれない貴センターの活動に今後も注目してまいりたいと思います。貴センターの益々のご発展を祈念しております。
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Newsletter #20-1 長寿の秘訣 ~地球上の最長寿生物「ナラタケ菌類」の三つの秘密~! (森林圏ステーション 南管理部 車 柱榮)
2018年11月14日
時代が変わっても健康と長寿は昔から、人類共通の願いである。日本は世界一の長寿国である。その理由について、食べ物と長寿の関係に詳しい日本食肉消費総合センターは、抗生物質の開発や医学の進歩の他に、食生活の質的転換、すなわち穀粒中心から動物性食品を併せて摂る食生活が進んだから、という。しかし、長寿には医薬や栄養源以外の理由はないのだろうか? 実は、私がこれまで研究してきたナラタケ菌類は現在、地球上で一番体が大きく最長寿の生物なのだ。森林において、10トン以上の体で1,500年も生きているナラタケ菌類が私たちに長寿の秘訣を三つ教えてくれた。
秘訣その一は“器用な生き方をすること”:北海道で「ボリボリ」と呼ばれているナラタケ菌類は、私の研究によって2新種と1新亜種を含む6種が生息していることが分かった。世界的には30種以上の多様な種がある。彼らの生活パターンは驚くことに、樹木を含む森林植物に対する病原菌でありながら、自ら倒木、落葉及び落枝などの木質分解能力を持っていることに加えて、他の植物や菌類との共生能力も併せ持つことである。まさに器用な生き方が出来ることなのである。
秘訣その二は“繋がりを作ること”:ナラタケ菌類は、緑の葉を持っていないことで独自生存が不可能なラン科植物のオニノヤガラやツチアケビとの共生生活を送っている。森林内では、ナラタケ菌類は寄生者や腐生者として土壌中に特異な兵器とも言える菌糸束を伸ばし、オニノヤガラの根茎やツチアケビの根と繫がるのである。彼らと栄養分や水のやり取りをして共に生きることが出来るのである。
共生するキノコもある。森の中の切り株や枯死木には正常なキノコの傘が出来ず団子状になってしまうタマウラベニタケを見かけることがある。それはナラタケ菌類の技である。タマウラベニタケはナラタケ菌類がいる場所でしか発見できない。ナラタケ菌類がまず木質を分解し、そこで生成された2次代謝物質がタマウラベニダケの生存には欠かせないようだ。タマウラベニタケは栄養分を求めて、ナラタケ菌類に侵害を受けながらも共存するのである。さらに、森林内には大きなウサギ耳状のものを作ることでオオミノミミブサタケと呼ばれるキノコがある。土の中に形成された菌核から生えたものである。菌核を調べてみると菌核内部がナラタケ菌類の菌糸束で侵されている。すなわちオオミノミミブサタケ菌はナラタケ菌類から侵害されることで危機感を感じ、キノコを作り胞子を飛ばすことで子孫を残せるのである。このようにナラタケ菌類の菌糸束は森林土壌中であらゆる生き物と繋がりを作る。ネットワーク作りが上手な生き方が第二の秘訣と言える。
秘訣その三は“ボランティア上手であること”:ナラタケ菌類の菌糸束の外側はエナメル質のような光沢質である。野鳥であるクロツグミやアカハラは森林内で巣を作り、雛を育てている。ナラタケ菌類の菌糸束は、地面の腐った倒木などから容易に、豊富に取れる。菌糸束は、保温性があり、またヒナの排泄物や雨水に対する撥水性が優れているので、雛と接している巣の内部材料として使われる。そこで使われた菌糸束は死ぬことでナラタケ菌類にとっては何のメリットもないように見える。しかしよく考えると、森の中にナラタケ菌類が生息していることで巣のための材料提供が出来、ツグミやアカハラが住みやすい環境になる。そこに棲息するアカハラは植物の果実を餌にすることで樹木の種子散布の働きがある。多様な森林が維持されることはナラタケ菌類の生存や広がりにとっても都合の良い環境になる。このことは「野鳥のためにあることが回りまわって自分のためになる」というボランティア精神あふれる生き方と言えるのではないだろうか?
さて、ナラタケ菌類の長寿の秘訣は私たちの長寿にどのように生かすことができるであろうか?ナラタケ菌類のような完全な“器用さ”は望まなくていいが、新しいことを目指す姿勢を持つこと。また、身の回りのすべてと社会的ネットワークを作り、時間がある限り奉仕の生活を送ることで自分を照らされ、生きる必要性を感じることである。すなわちナラタケ菌類の生き方こそが、身体的(フィジカル的)・メンタル的な長寿のための秘訣ではないだろうか?
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Newsletter #19-4 自然エネルギー研究からの学び
2018年6月22日
耕地圏ステーション 生物生産研究農場 荒木 肇
再生可能エネルギーの農業活用について、工学部から作物残渣のエネルギー資源化の研究依頼があり、北大農場で産出される作物残渣の所持熱量測定や粉砕、ペレット化の可能性調査が、自然エネルギー研究の始まりだった。地元業者からの依頼もあり、夕張温泉のボイラー室からの余剰熱と温泉廃湯(熱交換温水)とをハウス内と内部のベッドに導入して、冬季アスパラガスを試みた。ホテル社長や地元の設備会社社長が、自らの施設や道具でシステムをつくり、厳冬期でもハウス内暖房なしにアスパラが生産された。
夏に雪冷熱や冬季に堆肥熱にチャレンジした。夕張市の閉校学校活用事業で、厚生労働省からの補助事業で、その一部には自然エネルギーによる体育館での野菜生産が含まれていた。自然熱源から人間が活用する熱量を獲得するには大量の雪や堆肥が必要である。「雪を使うと省エネ」「雪は代替冷熱源」には間違いないが、それを実現するには「研究施設」を作成してからの研究になる。上述の事業費から、雪冷熱は設備会社が地下雪室(L4.5xW3.6xH2.7m)を製造し、体育館内にアスパラガスやチコリーの栽培ベッドを利用させていただいた。
チコリーは根株を定植して15℃で萌芽して食用にするが、20℃では葉が結球せず、10℃では葉が伸長しない。温度制御を研究するには好適な材料である。雪室からベッドへの冷熱輸送は雪室底部とベッド間に循環パイプを設置し、冷水循環で対応した。つまり冷水がベッドに行き、そこで暖められた水は雪下で冷却されて、またベッドに導く方法である。
調査を継続すると種々の課題がでてきた。「室中の雪が7月で融けてしまった」。雪室といっても、壁には断熱材を貼り、地温伝導を抑制、融水はポンプでくみ上げ等の工夫をしているが、こればかりは雪量で解決するしかない。結局データを採取した年は25万円を払って美唄から雪を購入した。次に「冷水は来るがベッドは冷えない」。冷水はベッドの壁面を通過する。ベッドにも断熱材を底面・側面・天井に設置しているおり、ベッドおいたハウス内も地中熱の冷風を流している。地中からの冷風は地上にあがるとすぐに高温になる(空気の比熱はたいへん小さい)。周囲が25℃以上なら、断熱材を貼っていても、ベッド内部の気温は冷やせない。盛夏に雪冷熱でチコリーをつくる試みは失敗したが、「栽培箇所の断熱と培地の直接冷却」の重要性を認識した。あたりまえのことがやっとわかったのである。
翌年は栽培室(断熱材で囲う、L1.8xW1.8xH2.4m)をつくり、この内部に地下3mの地中熱を導入するが、その導入パイプも断熱材被覆。栽培室内部には培養液を循環させる水耕装置を設置し、培養液中に雪冷水パイプを直接導入。結果としてこの方法は盛夏でも培養液を15℃に制御することとなった。
培養液に投げ込みクーラーをいれれば設定温度は実現できたかと思う。技術研究とするなら、熱供給側(貯雪→雪冷水循環)と栽培装置側(室内温度や培養液循環)の双方が温度管理できる構造物であることが技術の鍵である。「雪で冷却」はローテクであり、「雪で冷えるのは当たり前」の発想もあり、研究費獲得も容易ではない。そのローテクを実現する環境にも考慮いただきたい。
最後に環境で一言。自然エネルギーでの農業生産に関心をもつ学生が多い。なぜ実現できないのだろうか?原子力依存の政策にも問題がある。「自然エネは不安定か」はもちろんそうである。自然に依拠しているから。技術的にまだまだアイディアや知恵が必要です。そして自然エネ活用を動かす社会や組織が必要である。前述の研究では、技術だけでは自然エネ活用はできないと実感した。自然エネを使う社会をどうつくるか? 初期投資の確保、自然エネ活用事業の経営、利潤分配等の課題があり、この「環境起学」が重要。熱心な学生がいるが外部資金が不充分で、研究費をかなり投入した。退職までには赤字解消を申し添える。
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Newsletter #19-3 北方生物圏フィールド科学センターへの要望
2018年6月13日
大学院農学研究院 研究院長 横田 篤(センター外運営委員)
私の専門は農芸化学の応用微生物学で、学生時代を含めこれまで40年近く専ら実験室におりましたので、フィールド科学センターとは接点がありませんでした。しかし農学研究院長として3年前からセンター外運営委員となり、漸くセンターとの関わりができました。そこで運営委員会での経験と農学研究院や北大の運営面からの要望を述べてみたいと思います。
運営会議に出席して初めて知り印象的であったことは、センターの各施設が各領域の学内外の研究者に利用されているだけでなく、文科省教育関係共同利用拠点として学外や海外からも学生を受入れ、フィールド科学に強みのある北大の教育研究に有効利用されていることでした。一方で、組織再編により2001年にセンターが誕生し各領域が一つの組織にまとまった意義を踏まえた今後の展望についての議論が必要ではないかと感じました。これは逆に言えばセンター発足時に農学部から農場、牧場、演習林、植物園と一挙に4つもの附属施設が切り離されたことの教育研究面におけるデメリットをどうしても考えてしまうからです。
次に本論として北大の運営面から見た要望です。そもそも演習林や農場は維持資金としての基本財産であり、その運用(経営)収入は札幌農学校や北海道帝国大学の経常的な運営財源でした。秋林ら(北大演研報 54(2), 273-298 (1997))は、例えば昭和初期に雨龍地方演習林の森林売却益によって理学部創設費(昭和2~5年)の半分が賄われ(現在博物館となっている旧理学部の建物新営費の70%)、他にも医学部附属病院拡張費(昭和元〜9年)、農学部の改築(含現在の本館新営)費(昭和7~12年)の大部分が支弁され、これが農学校から帝国大学への昇格やその後の総合大学化の決め手になったと述べています。国の財政が逼迫する中このような自己資金の有無は大学運営に決定的に重要であったため、当時の帝国大学は演習林の拡充に努めました。中でも北大の演習林は広大で現在でも国立大学の全演習林面積の1/2、世界の大学演習林としても最大の面積を誇っています。残念ながら現在は過去の過度な伐採により森林が回復せず、研究林の収益はごく僅かと聞いています。
一方、世界一の広大な面積を生かしてカーボンオフセットの仕組みを導入すれば、伐採によらずに持続的な収益をあげることが可能との試算があります。法人化による財政難に苦しむ今こそ演習林設立の原点に立ち返り、全学の経営に貢献する時ではないでしょうか。センターの理念としての「持続的な生物生産」にも合致し、緑のスクールカラーを持つ北大らしい先進的な取組みとして世間からも評価されるでしょう。この取組みは過去に何度か検討されていると聞きますが、この機会に是非推進し実現していただきたいと考えます。
フィールド研究に従事していない素人が勝手なことを申し上げました。ご無礼や私の思い違いがあれば指摘いただき、ご容赦とご教示を乞うものです。
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Newsletter #19-2 桃栗三年柿八年…
2018年5月15日
水圏ステーション 七飯淡水実験所 山羽 悦郎
20年以上前に、「桃栗三年柿八年といいますが、これは種(タネ)から栽培した場合です。甘柿の枝を渋柿の根に接木すれば、八年かからずに甘柿を食べられるのです。このような種苗生産を魚でできないでしょうか。…」という文章で始まる科学研究費の申請をしました。首尾よく研究費に採択され研究が始まりました。どんな研究かというと、まずある魚(ドナー種)の発生過程で分化してくる生殖細胞の元となる細胞(始原生殖細胞:PGCといいます)を取り出し、別の種(宿主種)の胚へ移植します。そうすると宿主種の生殖腺にドナー種のPGCが組み込まれ、やがて宿主種の生殖腺の発達に伴ってドナー種の配偶子(卵、精子)が作られます。このままだと宿主種の配偶子も作られますから、宿主種のPGCは分化できないようにします。このようにして、別の種の配偶子を作る魚が作り出されました。約3ヶ月で成熟するゼブラフィッシュを宿主種とし、成熟に1年以上かかるキンギョやドジョウの精子が作れたのです。つまり、キンギョやドジョウのPGCをゼブラフィッシュへ接ぎ木することで配偶子を作るまでの時間を短縮することができました。しかし、どんな魚の配偶子も作り出せる訳ではありませんでした。同じ属の近縁種なら卵も精子も作れますが、遺伝的な距離が遠くなるにつれて精子だけしかできなくなり、目のレベルまで離れると配偶子は作られませんでした。接ぎ木の場合でも、種間の遺伝的距離が遠くなればつながらなくなりますから。
「接ぎ木」というのは農業・園芸用語です。別の種の配偶子を作り出す魚は、動物での「キメラ」という用語を使います。キメラというのは、遺伝的に異なる2つ以上の細胞から個体が構成されているという意味を持ちます。受精後、細胞が増殖をする時期に、同種の他胚からの細胞を移植すれば簡単にキメラは作り出せます。キンギョにフナの胚を移植すると、キンギョとフナの細胞をもったキメラができ、さらに両方の配偶子を作ります。すなわち、一つの個体から複数の個体の配偶子を生産することができます。これを発展させれば、多様性を持った配偶子を少ない個体に作らせることができるのではないかと考えています。現在、数多くの胚からPGCを集めて移植したキメラの誘導を目指し、研究を進めています。
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Newsletter #19-1 ミズナラもふるさとがやっぱりあずましい
2018年4月12日
森林圏ステーション 南管理部 門松 昌彦
古くから、北海道は優れた材質の広葉樹を産するところとして世界的に知られてきました。その広葉樹のひとつであるミズナラは、明治時代には「インチ材」の枕木として欧州に輸出されていました。ただし、実際の用途は枕木ではなく、家具の材料と使われていました。ナラ類の柾目(まさめ)という切断面には、「虎斑(とらふ)」とよばれる美しい紋様が表れ珍重されます。しかし近年、広葉樹王国と呼ばれてきた北海道にも陰りが見えてきて、道産材流通量が減少し輸入材が増加しています。
これに対処するため資源量の確保は当然ですが、育種的観点を入れて品質の向上を図ることも望まれます。道東の足寄(九州大学北海道演習林)では、足寄産ミズナラの材質が地域特性なのかどうか問題になったことがあると聞いたことがあります。一方、研究が先行している針葉樹のトドマツでは雪や寒さに関係する地域変異が報告されています。ミズナラの品質等が自生地の環境に影響されるのか、または遺伝的違いに左右されているのかを明らかにするため、1981年に以下の地域の同一母樹セットのドングリを相互交換し、足寄、山部(東京大学北海道演習林)、雨龍(北海道大学雨龍研究林)に産地試験地が設定されました。産地として定山渓(国有林)も加えられました。
設定20年後に3試験地を調査しました。産地を比較すると、根元直径は山部が最も太く、定山渓が最も細かったです。樹高も山部が最高で、定山渓が最低でした。試験地間を比べると山部試験地が成績優秀でした。試験地内での産地同士の違いをみると足寄では顕著ではありませんでしたが、他の試験地では根元直径、樹高ともに産地により違いがありました。さらによくみると、山部試験地ではそこがふるさとの山部産が、雨龍試験地では雨龍産が相対的に成績が良かったです。なお、定山渓産は3試験地全てで最悪の結果を示しました。設定30年後に3試験地を再調査しましたが、似たような傾向がみられました。
最大積雪深は足寄、山部、雨龍の順に深く、足寄は1mにもなりませんが、雨龍では平地でも2mを優に超えます。写真に示したように、雨龍試験地では一部の足寄産ミズナラが雪圧の被害を受けていました。産地間の違いの要因のひとつとして雪が挙げられるかもしれません。
ミズナラ人工林は100年強で収穫できると言われています。今37年を迎えた試験地はまだまだ若いステージにあります。
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Newsletter #18-4 新任教員紹介
2017年12月24日
新任教員紹介:市原 健介(いちはら けんすけ)
(News letter 18号掲載予定)
水圏ステーション 室蘭臨海実験所・特任助教
経歴: 北海道大学大学院理学院自然史科学専攻博士後期課程修了。博士(理学)。専門は海産緑藻の分類学、進化生物学。東邦大学博士研究員、日本女子大学学術研究員、日本学術振興会特別研究員(東京大学新領域創成科学研究科)等を経て、平成29年4月より現職。
初めまして、2017年4月に文部科学省教育関係共同利用拠点の特任助教として室蘭臨海実験所に着任しました市原健介と申します。これまでは主に緑色の海藻類を対象として、分類(新種記載)や適応進化の研究を行ってきました。大学院時代は、沖縄県で発見した淡水産のアオノリの新種記載や低塩濃度への適応機構についての研究を行い、学位を取得しました。学位取得後は緑色海藻シオグサ科の分類や、微細藻ヒメミカヅキモの有性生殖機構、最近では緑色海藻アオノリ類での性染色体領域の解析や生殖様式の進化について研究を進めています。
室蘭臨海実験所には、もう10年以上昔の話になりますが、学部生時代に臨海実習でお世話になった思い出があります。当時の実験所は、チャラツナイの崖の下にあり、眼前に雄大な太平洋が広がっていたのをよく覚えています。臨海実験所という自分の研究対象である海藻類がいつでも採れる場所で、研究生活を送れることはとても幸運なことです。ここでの生活を通じて、自分の研究テーマをしっかりと確立したいと考えています。
着任し、すでに半年以上が経ちますが、国内・国際臨海実習に加えて、室蘭市の小学生や中学生を対象とした学習会を複数担当させて頂いたこともあり、本当にあっという間に時間が過ぎて行ったと感じています。陸上植物と比べると、海藻類は花も付けませんし、地味な印象が強いかもしれません。しかし、実際に海に出てみると、陸上植物の花に勝るとも劣らない鮮やかな色彩の海藻を多く見ることができます。紅藻、緑藻、褐藻はそれぞれに多様性な生活史や生殖様式を持っており、生物学的な視点で見てみても非常に魅力的なグループです。また褐藻類からはアルギン酸やフコイダン、紅藻類からは寒天等の抽出物も多く生産されており、実は人の生活に密に関わっているグループでもあります。臨海実験所で行なわれる実習やその他のアウトリーチ活動を通して、様々な海藻の魅力的な面を利用者の方たちに伝えていけるよう努力していきたいと思います。どうぞ今後ともよろしくお願い申し上げます。
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Newsletter #18-3 動植物エッセイ
2017年12月22日
動植物エッセイ:エンビセンノウ―“湿原の花火”を消さないために
(News letter 18号掲載予定)
耕地圏ステーション 植物園 中村 剛
ナデシコ科のエンビセンノウは,北海道では日高・胆振地方のみに見られます.湿性草地のヤチボウズ上に生育し,夏には花火のような紅色の花をつけてヤチボウズの緑と鮮明なコントラストを成します.しかし,湿性草地は放牧地への転換など開発を受けやすく,その自生地は激減しています.私たちの生態調査で,道内ではエンビセンノウは9集団約300個体しか現存せず,そのうち7集団は10個体以下で,絶滅の危険性が非常に高いことが分かりました.
実は,北海道は日本で最も絶滅危惧植物が集中する地域の1つです.しかし,北海道の絶滅危惧植物は必ずしも道固有種ではなく,東北アジアに広く分布する種が多く含まれます.エンビセンノウも,日本(北海道,青森,長野),韓国(江原道),中国(吉林省),ロシア(沿海地方)の環日本海に分布します.種の分布は広い一方で,集団が僅少な日本,韓国,中国で絶滅危惧種・希少種に指定されています.
私は,東北アジアの絶滅危惧植物の研究と保全を行っています.従来,広域分布する絶滅危惧植物の保全研究は,国境という非生物学的な枠組みで制限されてきました.しかし,種の効果的な保全のためには,分布域全体で集団間の遺伝子流動(花粉や種子の移動)の頻度や方向性,集団の遺伝的固有性を明らかにし,集団の保全優先度をグローバルに評価して,その知見を関係国間で共有するネットワーキングが必要です.
これまでロシア,中国,韓国で,研究室の大学院生たち及び現地の共同研究者と調査・採集を行いました.エンビセンノウが絶滅危惧種とされていない唯一の国であるロシアでは,広大な湿原に数百株が咲き乱れており,健全な自生地の環境を知ることができました.遺伝解析の結果,長距離の遺伝子流動はほとんどなく各国で遺伝的固有化が進んでいることがわかり,遺伝的多様性を失わないために日中韓で生息域外保全を進めることになりました.また,北海道・青森集団はロシア集団と,長野集団は韓国・中国集団と比較的近縁なことから,本種は,ロシアから北海道,朝鮮半島から本州の南北2ルートで日本に進入したと考えられます.この分布拡大経路を背景として,種内最大の遺伝的分化は北海道–長野間に認められました.日本国内の保全活動ではこれに留意し,自生地や栽培下で遺伝子汚染を起こさないよう注意が必要です.
環境省では既にエンビセンノウの栽培・増殖を行っていますが,株の由来が不明でした.分布域全域をカバーした遺伝解析の結果と照合することで長野県軽井沢の由来と判明し,生息域外保全株としての価値を回復することができました.北大植物園でも,工事で消失した自生地のエンビセンノウを生息域外保全しています.増殖した保全株を環境が回復した元自生地へ植え戻す計画を地権者企業と協力して策定し,また,環境教育のために園内に自生地の様子を再現した生態展示を制作しました.この生態展示を見て,エンビセンノウの遥かな旅路とその保全意義について考えて頂けたらと思います.
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Newsletter #18-2 研究エッセイ
2017年12月13日
研究エッセイ:海のしきさい
(News letter 18号掲載予定)
水圏ステーション 厚岸臨海実験所 伊佐田 智規
2017年12月23日、JAXAから海の色を測定する新しい高解像度の地球観測衛星SGLI/GCOM-Cが打ち上げられます。愛称は『しきさい』に決まりました。私の研究の一つは、海の色を調べて、海の中にいる植物プランクトンの量、種類、光合成量などを、衛星から推定する事です。船に乗って現場の海水データを集め、それらからアルゴリズムと呼ばれる関係式を作り、衛星の情報と組み合わせる事で、植物プランクトンの量などを広範囲かつ連続的に推定します。海の植物プランクトンは光合成により二酸化炭素を吸収するので、地球温暖化など現在の地球の状態を評価する上でも、その動態を衛星から知る事は重要です。食物連鎖の出発点でもあるので海洋生態系をより理解する事にも繋がります。
ところで皆さんは、海の色は?と聞かれた場合、どんな色をイメージしますか?おそらく「青」をイメージする方が多いと思います。しかし、海の色は場所や季節によって異なります。陸から遠く離れた外洋域の海は確かに青いのですが、厚岸臨海実験所の目の前にある沿岸の海はむしろ緑っぽく、黄色、茶色、黒っぽい時もあります(下写真)。毎日違う色を見せてくれるので、陸でのお花見や紅葉の様な感覚で楽しむ事ができます。海の色は、水分子自身、植物プランクトン、懸濁物質(デトリタス)、色がついた溶存有機物(有色溶存有機物)の吸収・散乱で決まります。海の色を測定する衛星は、太陽の光が水中に入り、これらの物質に吸収・散乱され、最終的に海から返ってきた残りの光(反射率)を測定しています。現場にある物質と反射率の関係が予め分かっていれば(アルゴリズムを作れば)、反射率を測定するだけで海面付近の情報を推定する事が可能になります。水分子の振る舞いはどこでも変わらないので、外洋域における水中の光吸収成分は主に植物プランクトンである、と比較的単純に考える事ができるのですが、厚岸の様な沿岸域は植物プランクトン以外にも、懸濁物質や有色溶存有機物が豊富に存在するので、複雑な光学特性を示します。特に有色溶存有機物は、陸上の森林や特に湿原などで生成されたフミン酸やフルボ酸といった腐植物質から構成される物で、紫外域を良く吸収します。厚岸水系の上流にはラムサール条約湿地にも登録されている別寒辺牛湿原があり、有色溶存有機物が豊富に含まれた水が別寒辺牛川を通じて厚岸湾へと流れてきます。厚岸の海が黄色や茶色に見える時があるのはそのためです。
新しい海色衛星『しきさい』では、植物プランクトンの量を推定する事以外にも、有色溶存有機物を正確に推定する事もミッションの一つとされています。有色溶存有機物は海への河川流入の指標にもなるので、森・川・海の流域評価にも力を発揮する事が期待されています。厚岸の海は複雑な光学特性を示す一方で、有色溶存有機物の影響を評価できる、まさに最適の海域となっています。『しきさい』がどんな地球の彩りを映し出してくれるのかが楽しみなのと同時に、この衛星の高精度化に向け、厚岸臨海実験所のみさご丸に船酔いにも負けず乗船し、現場検証データを取得する事で、地球観測ミッションに貢献できればと思っています。
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Newsletter #18-1 フィールドエッセイ
2017年12月8日
フィールドエッセイ:ドングリを拾い続けてわかる長期観測の重要性
(News letter 18号掲載予定)
森林圏ステーション 北管理部 植村 滋
果実や種子の数が、個体間で同調しながら年次変動する現象を豊凶変動といい、狩猟採集の時代から人々の暮らしと密接に関わる生物現象として、大きな関心が払われてきました。豊凶変動は個体群の更新動態だけでなく、それらを摂食する哺乳類や鳥類、昆虫などさまざまな生物の個体群動態にも大きな影響を及ぼします。そのため、変動のパタンや豊凶を引き起こすメカニズムを解き明かすことは、生物生産の現場はもとより、複雑な生態系の相互関係の理解にとっても重要な課題のひとつです。
北方生物圏フィールド科学センターの各研究林では、北海道の代表的な落葉広葉樹で、木材資源としても重要なミズナラの種子、つまりドングリの成り具合を長期にわたって観測しています。最も早くから観測が行われている雨龍研究林では、1981年に流域の異なる3つのサイトで林冠を構成するミズナラの成熟個体を選定し、観測を開始しました。その後の台風などによる風倒や大きな枝に損傷を受けた個体を除く47個体でモニタリングが続けられ、2017年現在で36年間のデータが蓄積しています。
モニタリングでは、毎年8月に樹冠下のササや下草を刈り払ったあと、9月初旬から10月上旬まで都合3回、樹冠下に落下したすべてのドングリを拾い集めます。拾い漏れがないように、落ち葉の下も丁寧に探します。集めたドングリは母樹ごとに袋に入れて庁舎に持ち帰り、全体の重さを測った後、ひたすら数えます。最後に、虫食いやシイナ(中身が充実していない種子)を除き、母樹ごとに50個の健全なドングリをランダムに抽出して、1個ずつ重量を記録し、平均値と分散を求めます。数え終わったドングリは山に撒いて、次世代の森の育成に役立てます。
秋の森でのドングリ拾いと言えば、のどかで楽しい牧歌的な光景を思い浮かべる人も多いと思いますが、観測個体が多いことに加えて、庁舎内での計測作業は単純かつ単調ながら、集中力と忍耐力が求められるきつい作業です。特に生産数がそれまでの平均の6倍以上にもなった2010年は、まさにマスティングと呼ぶに相応しい圧巻の大豊作で、手分けして数えたドングリの総数は実に38万個。しばらくは誰もがドングリの顔を見るもの嫌になったほどでした。
これまでの観測結果から、個体間やサイト間で変動の傾向が同調し、受粉期や登熟期の気温や降水量など地域的な気象環境が影響していることが明らかになりました。また、豊作の翌年は不作あるいは凶作になる確率が高く、豊作によって翌年の繁殖に利用される貯蔵資源量が低下するなどの個体の内的要因も豊凶に関与していることが明らかになりました。長期間の変動傾向の中で特に注目されるのは、観測期間の前期は1987年の豊作年を除いて、生産数が少なく変動幅も小さかった変動パタンが1993年を境に大きく変化し、例外はあるものの周期的な変動パタンが見られるようになったことです。考えられる要因のひとつとして、近年の地球温暖化による夏の気温の上昇で光合成活性が高まり、繁殖資源量の回復に要する期間が短縮した可能性を指摘する人もいます。
豊凶変動と他の生物との関係では、森に棲息するアカネズミの個体数が、かなりの確率で前年のドングリ生産数と同調して変動していることが明らかになりました。これは越冬中の餌の多くをドングリに依存しているアカネズミにとって、秋の間に蓄えたドングリの量が越冬中の生存率や翌年の繁殖成功率と密接に関わっているためと考えられています。一方、特別な種子散布器官を持たないミズナラにとっても、生育適地への散布の成功率がネズミの密度依存的な捕食や貯食行動に左右されることから、ネズミの個体群密度とともに豊凶変動の同調性が生じたという適応進化的な仮説の検証についても手がかりを得られることが期待されます。
これまでの観測によって、森林生態系の動的な維持機構の一端が少しずつ解明されてきましたが、何しろ1年かけてようやくデータがひとつ積み重なるだけの地道なモニタリング調査です。そのため、これだけ長期にわたって個体ごとの種子生産量を大規模に観測している研究は世界でも例がありません。短期間では決して成果を得ることができない息の長い研究ですが、各研究林では森林のダイナミクスや生物間の相互作用に関するさらに興味深い謎を解き明かすために、ドングリを拾い続けています。
写真1:秋の森でドングリ拾い。豊作年は職員総出で拾います。
写真2:作業所内での計数は、集中力と持続力が求められるきつい作業。
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