FSCセンター長 宮下 和士
北海道大学北方生物圏フィールド科学センターは、2001年4月に、農学部・理学部・水産学部に所属していた生物系の附属施設に生態系変動解析分野(函館)の教員を加えて設立された教育研究組織です。本センターは森林圏・耕地圏・水圏の3ステーションから構成されており、各ステーションには7つの研究林(旧演習林)、農場・牧場・植物園、そして臨海実験所・水産実験所・臨湖実験所・淡水実験所など、合計16の施設・フィールドが存在しています。その面積は約7万haで一大学の保有するフィールドとしては世界最大級の規模になります。この広大なフィールドを使い、第一次産業(農林水産業)としての生物生産、土地利用と地域あるいは地球規模での環境保全のあり方、生物多様性や自然環境・原生自然の保全、さらには地域再生などに関する研究をおこなっています。特に、多様なフィールドと組織力を活用し、長期的なモニタリングによる環境・生態系変化に関するデ-タの蓄積や、意識的にフィールドを撹乱して生態系の応答を見る操作実験など、実際的スケールで野外研究を実施していることも特徴です。また、北方圏における遺伝子も含めた生物デ-タの蓄積、希少種などの標本・サンプルの保存・提供、環境も含めたフィールド情報の蓄積なども重要な役割と考えており、いくつかのフィールドはJaLTER(日本長期生態学研究)の基幹サイトに登録され、国際的な生態系モニタリングネットワークを形成しています。
本センターの教員は、環境科学院・農学院における大学院教育、農学部や理学部、水産学部、獣医学部などの学部教育ばかりではなく、総合講義やHUSTEP(短期留学生プログラム)、一般教育演習(フレッシュマン教育)などの全学教育にも携わっています。さらには、全国の学生や大学院生を対象とした「フィールド講座」の開催、単位互換制度による他大学からの実習生の受け入れや実習等の共同実施、そして海外の大学との相互実習の実施なども積極的に展開しており、いくつかの施設・フィールドは、文部科学省教育関係共同利用拠点として認定されています。
また、キャンパス内の施設と異なる本センター地方施設の大きな役割として、教育研究ばかりではなく、所在自治体と連携して施設内で蓄積された生物生産やフィールドに関する知識・技術を活用し、地域に貢献するということがあげられます。小中高生や地域の方々を対象としたフィールド体験学習や市民対象公開講座の開催などの他、マンパワーや技術力を積極的に提供して地元の人々と密接に協力しながら地域の振興に取り組んでおり、本センターと連携協定を結んでいる市町村も少なくありません。
北海道大学はその基本理念として、「フロンティア精神」、「国際性の涵養」、「全人教育」、「実学の重視」の4つを掲げています。北大キャンパスは国内大学では屈指の規模を誇っていますが、実はそれ以上に世界で有数のフィールドを持ち、その中で基礎から応用・実用までの多様な研究が規模(面積)の制約を受けることなく自由な発想で展開されています。北大生の皆さんは、キャンパス内での座学に終始せず、自ら積極的に北海道の自然に飛び込み、フィールドで行われている実習を通して様々な学問分野の友人を作り、北海道の厳しい環境で生活している地域の人々との触れ合いを通じて豊かな人間性を育んでもらたいと考えています。その中で地域の抱える課題について考え、課題解決のためには国際的な視点、海外での勉強・体験、異文化コミュニケーションの必要性などを感じ、グローバルに活躍しようという意識を高めてくれることを期待しています。
令和4年4月1日 センター長 宮下 和士