お知らせ・トピック

宮下センター長が再生可能エネルギーについてテレビ番組のインタビューを受けました

2023年10月27日

10月28日(土)STV(札幌テレビ放送株式会社)で、あさ9時25分から北海道庁提供のテレビ広報法番組「知るほど!なるほど!北海道」の第3回テーマ「北海道だからやる!できる! ゼロカーボン北海道」 において再生可能エネルギーの洋上風力について宮下センター長のコメントが放送されます。

番組ホームページhttps://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/tkk/koho/bansen/156563.html

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北海道洋上風力アカデミーの勉強会が開かれます

10月31日(火)に北海道大学学術交流会館小講堂において、北海道洋上風力アカデミーコンソーシアムによる「道内での洋上風力人材育成の展開を見据えた勉強会」が開かれます。

本学は参加補助事業者として参画しており、当センター長宮下和士も講演いたします。

日時 2023年10 月31 日(火)13:00 16:00 (受付開始 12:30 30)

会場 北海道大学学術交流会館小講堂 北海道札幌市北区北8 西5)

※アクセス・館内マップは以下を参照ください。
https://www.hokudai.ac.jp/bureau/property/s01/access/

定員現地参加:180 人(オンライン参加は無制限)
参加費無料

参加申込方法:以下のフォームより参加者情報の登録をお願いします。(期限10 月27 日)
https://forms.office.com/r/e01HPaRHDc
対象:北海道内の教育機関・地元企業等の皆様を対象としております。
お問合せ先:北海道洋上風力アカデミーコンソーシアムML HOA@marubeni.com

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雨龍研究林の自然共生サイト認定証授与式がおこなわれます

2023年10月24日

2023年4月から環境省による自然共生サイト認定制度の本格運用が開始されたことを受け、雨龍研究林(24,953ha)は認定申請を行い、10月6日に生物多様性の保全に貢献している区域として「自然共生サイト」の認定を受けました。これにより10月25日に東京で授与式がおこなわれ、認定証授与式の様子が以下URLにてオンライン配信予定ます。

認定証授与式(youtube.com/live/1oy9cLjOpIY?feature=share)

本学プレスリリース(10/10) 雨龍研究林が自然共生サイトに認定

環境省ウェブサイト雨竜研究林の認定サイトの詳細

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環境にやさしく、持続可能な農業を目指して

2023年9月22日

生物生産研究農場を利用して研究している、大学院 農学院の浪江日和さんの水田農法についての研究がケーブルテレビのJ:COMチャンネル「LIVEニュース~札幌~」で紹介されます。

■放送時間
9月23日(土)

生放送:12:30~
再放送:16:00~/20:30~/22:00~

後日 地域情報アプリ「ど・ろーかる」・ YouTubeでも配信される予定です。

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植物園で企画展「牧野富太郎と北海道の植物」を開催します

2023年7月24日

7月25日より企画展「牧野富太郎と北海道の植物」を開催します。
詳しくは植物園webサイトをご覧ください。

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植物園で小学生向け公開講座「葉っぱで作る植物図鑑」を開講します

2023年6月24日

植物園では、2023年7月27日(木)と28日(金)に小学生向け公開講座「葉っぱで作る植物図鑑」を開講します。詳しくは下記の植物園ホームページまたは募集要項をご覧ください。
なお、第4回(28日の午後)の回は定員となりました。

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【中学生対象】ひらめき☆ときめきサイエンス「 体験!ベリー研究の最前線“君も育種家になろう!”」

2023年6月22日

開催日:令和5年7月29日(土)

開催場所:北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター

        生物生産研究農場 センター庁舎

     (〒060-0811 北海道札幌市北区北11条西10丁目)

定   員:20名(先着順)

参 加 費:無料(昼食・おやつ付)


《お申し込み先》

日本学術振興会HP「ひらめきときめきサイエンス」よりお申し込みください。

申込締切:7月14日(金)


《お問い合わせ先》

 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター学術協力担当 小関弘悦

 〒060-0811 札幌市北区北11条西10丁目

 TEL:011-706-2572 MAIL:kyoryokuアットマークfsc.hokudai.ac.jp

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生物生産研究農場で苗の販売をおこないます

2023年5月23日

販売時間
6/1 (木) 12:00~13:00
​6/2 (金)  12:00~13:00
 苗が売り切れた場合は時間前に終了します

会場:園芸実習棟前
(農学部西側・国際食資源棟北側)

地図

注意事項
・混雑状況に応じて、入場制限をかける場合があります。
・駐車場はありませんので、車での来場はご遠慮ください。

苗は一鉢100円で販売します
釣り銭がないようにご準備ください

販売予定の苗
ペチュニア・インバチェンス・サルビア・ナデシコ・日々草・アスター・コスモス・ヒマワリ
​コリアンダー・シソ・スイートバジル・クレソン・トマト・ナス・エダマメなど

★購入袋は各自でご用意ください。

場所の詳細、連絡先はこちらをご確認ください

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北大植物園は公式ツイッターを開設しました

2023年4月29日

植物園公式ツイッターを開設しました。最新の見ごろ情報等をお届けします。ぜひご利用ください。
https://twitter.com/HokkaidoUniv_bg

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植物園は4/29より開園しました

2023年度の夏季開園が、4/29(土・祝)より始まりました。また5/4(木・祝)は4年ぶりに「みどりの日」無料開園を行います。皆様のご来園をお待ちしております。

オオバナノエンレイソウ
今が見頃のオオバナノエンレイソウ

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北の森林サイエンスカフェを開催します

2023年4月21日

SPEAKERS
かごあみ 絲さん
「かご編む暮らしを編む」
福澤 加里部 さん
(北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター 准教授)
「人と川とササと―脇役が担う森のはたらき」

日時:2023.5.20 (SAT) 14:00-15:00 (CAFE OPEN 13:30)

会場 : 北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター北管理部 (名寄市徳田250)
会費:入場無料
定員30名 (5.12までに参加申し込み必要)
参加申込フォーム
参加申込先: 北の森林サイエンスカフェ事務局
電話:01654-2-4264
メール: uru-jim@fsc.hokudai.ac.jp

“ サイエンスカフェ” は講演会やシンポジウムとは異なり専門家と一般の方が気軽に科学について語り合う場です昨年度から年に数回開催しています 

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ニュースレター27号が完成しました。是非ご覧下さい。

2023年3月28日

研究エッセイ
  水圏ステーション 室蘭臨海実験所 市原 健介

動植物エッセイ【国内希少種カラフトグワイ】
  耕地圏ステーション 植物園 中村 剛

フィールドエッセイ【世界最大のネットワーク型フィールド進化研究―都市化に対する植物の適応進化―】
  森林圏ステーション 南管理部 内海 俊介

北方生物圏フィールド科学センターへの要望【長期生態学研究にセンターは不可欠】
  大学院地球環境科学研究院 露崎 史朗(センター外運営委員)

編集後記 

ダウンロードはこちらから

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当センターと北海道イオンの取り組みがテレビ番組「イチモニ!」で紹介されます

2023年3月23日

放送は、北海道テレビ(HTB) で、3月25日(土)6:30からと9:30からの「イチモニ!」の中で紹介されます。

当センターのフィールドが、リカレント教育や地域貢献などに積極的に活用される、スタートアップとなる内容です。

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苫小牧研究林のクラウドファンディングに心強い応援団が!

2023年3月17日

苫小牧研究林で始まったクラウドファンディングに、ゴールデンカムイ作者の野田サトルさんが応援イラストを描いてくださいました。

クラウドファンディングの目的は、貴重かつ豊富な資料を誇る森林資料館と森林記念館を、毎月最終金曜日にしか公開出来ないものを土日公開するためのものです。

目標額150万円で
森林資料館と森林記念館の休日開館(4-10月)
森林資料館の展示の改良
樹木園の案内板のデザインと再設置

210万円で
森林資料館と森林記念館の休日開館(11-3月も開館し通年開館へ)

300万円で
森林資料館の展示物の燻蒸作業

実は資料館にとってこの燻蒸作業はとても重要で、資料を虫食いやカビから守る大切な作業です。人の出入りが多くなるほどこれらのリスクが増えるのも事実なのです。

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苫小牧研究林でクラウドファンディングを始めました

2023年3月1日

苫小牧研究林では3月1日から31日まで、クラウドファンディングを実施することになりました。目標金額は150万円となっております。いただきました寄付は、敷地内にある博物館(森林資料館と森林記念館)の週末開館(これまで月に1回平日のみ開館)、さらには樹木園エリアの整備費用に充てさせていただく予定です。

是非ともこの機会に苫小牧研究林の魅力を理解していただき、みなさまの温かいサポートをお願いいたします。

苫小牧研究林の魅力を伝えたい!〜資料館の休日開放と散策路の整備〜

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生態系サービスの価値創造と地域創生 シンポジウム

2023年2月2日

Blue Socio-Eco3 Stewardship センター設立に向けてのシンポジウムがおこなわれます。

当センターでは沿岸地域に着目し、「環境・経済・生態系(Eco3)」に配慮した持続的社会(Socio)の実現に取り組む組織を目指しています。ここでは、市民会議等による合意形成を取り入れた持続可能な地域づくり、多様な生態系を科学の力で「見える化」し、その「価値」を地域と共有する自ら価値を創造できる地域人材(LRA)を育成し、地域社会の自立化を図ることを実践し、社会実装を目指します。

日  時:2023 年3 月16 日( 木) 15:00 ~ 17:00
会  場:北海道大学 学術交流会館 第1 会議室(定員50 名)
     同時オンライン配信あり
主  催:北方生物圏フィールド科学センター/ 大学院水産科学研究院
共  催:サステイナビリティ推進機構 / 産学・地域協働推進機構 / URA ステーション
お問合せ:BSES@fsc.hokudai.ac.jp
お申込み:URL(https://forms.gle/fXSNuhBDcUDXxqsy7

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冬の植物園ウォッチング・ツアー(小学生向け公開講座)を開講します

2023年2月1日

植物園では、3月4日(土)と5日(日)に小学生向け公開講座を開講します。詳しくは下記の植物園ホームページまたは募集要項をご覧ください。

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北大短角牛がテレビに取り上げられます

2022年12月2日

北海道放送(HBC)では、12月3日土曜日15:30から放送の「石ちゃんのビーフ天国」で、静内研究牧場で生産される北大短角牛について取り上げられました。是非ご覧ください。
 https://www.hbc.co.jp/tv/beef/

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生物生産研究農場の食材がホテルの朝食で提供されます

12月1日から京王プレリアホテル札幌では、生物生産研究農場が生産する「北大食材」を組み合わせたメニュー3品を日替わりで提供することになりました。

これは北大牛乳、北大短角牛に続く第3弾の試みで、このような活動を通じて、教育研究の現場にフィードバック出来るものがあれば、社会との有機的な繋がりが出来ると考えています。

プレスリリース

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森林圏ステーション北管理部でサイエンスカフェがおこなわれます

2022年11月4日

森林圏ステーション北管理部では、高校生〜ー般社会人向けイベント「北の森林(もり)サイエンスカフェ」をおこないます。

宮地 鎮雄さん
「中川町産オニグルミ材の家具作り
丸太で全量買い取りを始めて変わったこと」
(工房宮地 代表)

小林 真 さん
「土によって変わる木材の色」
(北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター 准教授)

2022.11.24 (THU.) 18:00-19:00(CAFE OPEN 17:30)
会場 : 北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター
北管理部 (名寄市徳田250)
入場無料
定員30名 (11.17までに参加申し込み必要)

https://boreal-forests-science-cafe.weebly.com/

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Newsletter #25-3 研究エッセイ

2021年7月6日

水圏ステーション 忍路臨海実験所 四ツ倉 典滋

 北海道の各地沿岸域には豊かなコンブの群落が広がっています。これらコンブは地域の海洋生態系や環境を支えるとともに、食材として長年にわたって私たち日本人の食卓も支えてきました。しかし、近年深刻化する気候変動による環境変化はコンブの生育に影響を与え、将来の分布域が変化することが考えられます。厚岸臨海実験所との共同研究によって、IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)が気候の予測や影響評価を行う際に用いるRCPシナリオ(代表濃度経路シナリオ)に基づいて解析すると、天然コンブの分布域は時の経過とともに北上し、温暖化が緩やかに進むシナリオにおいてさえも今世紀末には道内現存種の少なからずについて、その生育適地が北海道から外れる可能性があることが示されました。実際、数年前に我が国のコンブ分布の南限とみなされ、私がよく訪れていた東北地方のある地域のコンブ群落が今日までに姿を消したと伝えられるなど事態は切実です。

知床羅臼の”コンブの森”

 北海道ではコンブ漁獲量のおよそ3分の2が天然採取です。近年の天然漁獲量の減少を受けて、各地で藻場と呼ばれる“コンブの森”を造成するための取り組みが行われています。一方で、総漁獲量の安定を保つために養殖による増産が図られています。しかし、現状の藻場造成はコンブの着生場所作りに重点が置かれており、そこに生えるコンブは自然任せであることが多く、また、養殖においても種苗は天然採取された母藻に依存しているのが実情です。この先もこれまでのように天然コンブを利用できるかどうかわからないことから、天然個体に頼ることなく藻場造成や養殖ができる体制を整えることが求められます。

 そこで、忍路臨海実験所では現存コンブ資源の培養保存に努めており、それら保存株を藻場造成や養殖、育種に活用していくことを目指して研究を進めています。現在のところ道内外から集めた100産地を超える株を無菌状態で保存しています。コンブは、私たちが磯で目にする葉状体(胞子体世代)の状態で維持管理することは難しいのですが、糸状体(配偶体世代)として長期にわたって保管することが可能です。試験管のなかでマリモのような姿をした保存配偶体は、プランクトン孵化水槽を用いた多段培養で高い増殖率を示し、藻場造成や養殖の現場スケールで利用可能であることが分かりました。成熟抑制条件のもとで保管されている雌雄配偶体は、成熟誘導-培養液組成や光条件の変更-を施すことによってそれぞれ卵と精子を形成し、やがて胞子体を作ります。配偶体や胞子体はそれ自体付着能力に乏しく、海底面に置いてやってもすぐに流失してしまいます。そこで、私たちは高分子ゲルやポリマーを媒体としてそれらを海中の着生基質や養殖種苗糸に接着させることを試みています。ゲルのなかにコンブの生長促進物質や、食植動物の摂餌阻害物質を含めることができればより用途は広がり・・・、夢は大きく膨らみます。効率的な成果が得られることはもちろん、如何に安価で取り扱いがし易く、環境への負荷が少ない技術を開発できるのか、挑戦はまだまだ続きます。

コンブ配偶体のカルチャーコレクション

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Newsletter #25-2 森の樹冠における植物と昆虫の相互作用

2021年5月28日

森林圏ステーション 和歌山研究林 中村 誠宏

 植食性昆虫は様々な方法で葉を利用しています。葉に潜る潜葉性(せんようせい)、葉をかじる咀嚼性(そしゃくせい)、葉をガン化させて瘤を作るゴール性などがいます。このように、共通の資源を同じような方法で利用する生物グループのことを「ギルド」と呼びます。しかし、こんなに昆虫が繁栄しているのに、「世界は緑のままで、植物はあり余っているのは、なぜなのでしょうか?」

 「昆虫にとって陸域の植物は理想的な餌なのでしょうか?」実は、植物は「まずい」物質を体内にため込む化学的防御を行っています。化学的防御には毒性の強いアルカロイドやテルペノイドを使う質的防御と消化阻害を起こさせるタンニンやフェノールを使う量的防御があります。このどちらも二次代謝物質です。この二次代謝物質とは成長や繁殖には直接的には関与しない植物が生産する有機化合物のことをさします。さらに、植物は物理的防御も行っており、これは摂食を妨げるトリコームやトゲ、そして食われにくくする葉の硬さなどをさします。野外調査では葉の硬さの指標としてLMAがよく使われます(LMAとは単位面積あたりの葉の重量)。つまり、「なぜ陸域の植物はあまり食べられないのか?」の答えは、昆虫の被食から葉を守るために植物は多様な防御システムを持っているからなのです。

植物は遺伝的に同じでも環境変化によりその形態的・生理的形質が容易に変化します。この変化させる能力のことを「表現型可塑性」と言います。表現型可塑性は移動できる動物よりも移動できない植物においてより重要だと言われています。また、環境変化はこの植物形質の可塑的変化を介して植食性昆虫に影響を与えることも分かってきました。

 北海道の森林を垂直方向に見ると、葉群は複雑な階層構造をしています。高木、亜高木、低木があり、また樹木個体内も樹冠上層から下層まで幅広く葉が分布しています。この複雑な階層構造が樹冠内の複雑な光環境を作り出します。つまり、上層にある葉が光の侵入を遮断してその直下の葉の光環境を改変するように下層に行くほどに光強度が弱くなっていきます。この光環境の異質性に合わせて葉形質や昆虫の被食も変化すると予測されます。

そこで、光環境の異質性が樹冠内の葉形質と昆虫被食に与える影響を見た研究をここで紹介したいと思います。北海道南部の黒松内ではブナ成木の樹冠を直接観察するために巨大なジャングルジムが建設されています。空間的変異を見るために樹冠の上部と下部で、また時間的変異を見るために6月と8月に葉形質と被食の調査を行いました。

 葉形質の時間的変異(季節変動)について説明します。LMA、窒素、C/N比を葉形質として測定しました。C/N比は炭素ベース防御物質の総量の指標です。LMAとC/N比は6月から8月にかけて増加しましたが、窒素濃度には季節変動は見られませんでした。次に、葉形質の空間的変異(樹冠の上部と下部の違い)について説明します。6月において樹冠の下部に比べて上部でLMA、窒素濃度、C/N比が高くなっていました。一方、8月においては窒素濃度とC/N比の空間的変異(上部と下部の違い)は6月と同程度であったのに対して、LMAはその変異がさらに大きくなっていました。

 咀嚼性による被食、潜葉性とゴール性の昆虫密度を昆虫被食として測定しました。6月に咀嚼性、潜葉性、ゴール性の空間的変異は見られませんでしたが、8月に樹冠の下部に比べて上部で咀嚼性被食とゴール性密度が低下しました。この結果は、季節(時間)とともに被食の空間的変異が顕著化する(広がる)ことを意味しています。8月にLMAの空間的変異がより大きくなったことが原因だと考えられます。このように、樹冠では葉形質と被食に時間的・空間的変異があることが分かってきました。光の当たり具合で植物の「まずさ」は変わり、その違いを昆虫は賢く嗅ぎ分けて食べているのです。

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砂澤ビッキ作《思考の鳥》の「キツツキ」が倒れました

2021年5月2日

4月21日に中川研究林庁舎に建てられた、砂澤ビッキの作品である《思考の鳥》の「キツツキ」が、真に残念ながら倒れてしまいました。

詳しくは中川研究林のウェブサイトをご覧ください。

中川研究林

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Newsletter #25-1 新任教員紹介

2021年4月14日

森林圏ステーション 雨龍研究林・准教授 森田 健太郎

経歴: 奈良県出身。北海道大学水産学部卒、同大学院水産学研究科修了。博士(水産科学)。日本学術振興会特別研究員DC2・PD、国立研究開発法人水産研究・教育機構水産資源研究所(旧北海道区水産研究所)主任研究員を経て、令和2年11月より現職。

 11月より雨龍研究林に着任した森田健太郎と申します。これまで私は、おもにサケ科魚類を対象として、寒冷な地域に生息するものほど体サイズが大きいという温度―サイズ則などを含む動物の生活史形質の変異や個体数変動が生じるメカニズム等に関する動物生態学、並びにダムや外来生物種などの影響に関わる保全生態学を専門として研究してきました。代表的な研究としては、山地渓流に設置された砂防ダムが在来種イワナに及ぼす生態リスクに関する研究が挙げられます。ダム上流域に隔離された局所個体群では実際に絶滅が進行していること及び遺伝的多様性が低下していることを野外データで示すとともに、個体群動態の数値シミュレーションによってダム建設の数十年後から絶滅リスクが増大することを明らかにしました。この他、水産資源の変動要因と生物多様性に配慮した資源管理に関する応用的研究についても取り組んできました。将来のサケマス類の増養殖技術の高度化に関して、人工ふ化放流に加えて自然再生産もバランス良く併用することで、天然魚から遺伝的に変質するという“家魚化”の懸念を払拭し、持続可能な漁業に取り組むことを提唱してきました。

 今後も、フィールドワークを基盤とした生態学研究の発展に寄与したいと考えています。特に、野生動物の生活史と個体群過程に関する基礎生態学と保全生態学に力を入れて取り組みたいです。これまで私が研究対象としてきた冷水性のサケ科魚類は、地球温暖化の影響を受けやすいことが想定され、また、彼らが暮らす河川の渓流域は、単一種の人工林や砂防工事などによる人為的な攪乱に晒されており、基礎生態学のみならず、保全生態学の題材として適しています。また、森林圏ステーションの豊かな自然環境を生かした体験重視のフィールド実習を企画していきたいと考えています。そして、研究することの楽しさを気づけるような環境づくりに力を入れたいと思います。大学時代には、研究活動を通じて「感動」してもらいたい、という思いがあります。それは、自然は理解するだけではなく、感じるものだ、という思いがあるからです。実際に現場に行って体験すると、理解を超越した生命現象を「感じる」ことができ、その感覚は、自らの力で研究の方向性を見出すうえで、かけがえのないものになると思うからです。森林生態系と水圏生態系は連動しており、幾許かの人間活動の影響を受けつつ、そこに野生動植物が暮らしています。こうした繋がりと実態をフィールド実習・演習を通して体感することで伝えていきたいと考えています。地域貢献と未来の研究者のために尽力したいと思いますので、これからどうぞよろしくお願いいたします。

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魚類は餌生物を通じてマイクロプラスチックを大量に取り込む

2021年1月29日

厚岸臨海実験所の仲岡雅裕教授が、本学大学院環境科学院修士課程の長谷川貴章氏と、マイクロプラスチック汚染の食物連鎖を通じた波及効果を解明しました。

詳細は本学プレスリリースでご覧ください。

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Newsletter #24-5 北方生物圏フィールド科学センターへの要望

2020年12月25日

大学院理学研究院 小亀 一弘(センター外運営委員)

 私は、海藻類の分類学的研究をしており、生態観察・材料採集で、臨海実験所には学生の頃から大変お世話になっています。北海道では、忍路、室蘭、厚岸の臨海実験所を主に利用させていただいてきています。実験所を拠点に、採集、サンプル処理、宿泊ができることは、研究を行う中で大変重要なことです。北海道大学には、臼尻にも水産実験所があり、北海道の各地に臨海実験所があることは、私の研究では大変恵まれた環境にあると感じています。忍路では、船外機付きのボートで観察場所の磯までよく送っていただいていました。冬の太平洋岸での磯採集では、夜に潮が引いているときに採集を行いますが、臨海実験所が無ければ、それはなかなか難しいことです。学生の時に室蘭で行った冬の夜の磯採集では、臨海実験所の先生に付き添っていただいたり、私が実験所に宿泊するときに宿直をしていただいたりして、大変お世話になりました。厚岸臨海実験所では、実習船を利用させていただき、大黒島での採集を行ったり、ドレッジによる採集をさせていただいていますが、このようなことも実験所がなければなかなかできません。私の研究、そして私の学生の研究も、採集品がなければ始まらないので、臨海実験所のサポートがあってこその部分があります。

 私が所属する理学部生物科学科(生物学専修分野)でも、センターの施設を利用させていただいています。室蘭と厚岸での臨海実習をはじめ、動物系統分類学実習と植物系統分類学実習では忍路臨海実験所を利用しています。研究林実習では苫小牧研究林を、基礎生物学実習、植物系統分類学実習、生態学実習では、植物園を利用しています。これだけ多くセンター施設を利用させていただいている学科は他に無いかもしれません。

室蘭での臨海実習風景(蓬莱門岩前、2019年5月20日)

 フィールド施設を維持していくこと自体が難しくなっている状況で、研究だけでなく、内外の学生への教育に積極的に取り組み、また、施設の利用者へのサポートもされているスタッフの方々には、全く頭が下がる思いです。フィールドでの教育・研究は北海道大学の特色とも言えると思っていますが、生物分野においては、それはセンタースタッフの努力によるところが大きいことは間違ありません。今後もセンターが発展することをもちろん望みますが、そのために是非北海道大学全体でさらにバックアップしていただきたいものです。

厚岸臨海実験所からドレッジ採集へ向かう(2019年7月2日)

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Newsletter #24-4 新任教員紹介

2020年12月24日

水圏ステーション 七飯淡水実験所・特任助教 黒田 実加

経歴: 北海道大学 大学院水産科学院(生物資源科学専攻)修了。博士(水産科学)。専門はハクジラ類の鳴音生成機構に関する機能形態学的研究。日本学術振興会特別研究員(DC2・PD)、北方生物圏フィールド科学センター学術研究員を経て、令和2年7月より現職。

物性測定に用いるハナゴンドウの頭部の横断標本をつくる筆者。色々調べて、家畜解体用電動鋸が最適であるということに気づいた。

 はじめまして。文部科学省教育関係共同教育利用拠点の特任助教として七飯淡水実験所に着任いたしました、黒田実加と申します。

 学部4年次より一貫して、小型ハクジラ類(イルカ)が環境認知のために出す超音波をつくるメカニズムについて研究してきました。イルカは頭部にある発音器官で100kHz以上にもなる超音波(クリックス)をつくり、反響定位による摂餌や環境認知を行っています。クリックスの周波数特性にはいくつかのタイプがあることが知られていますが、発音器官のどの部分で、どのようなメカニズムで周波数のタイプが決まるのかは未だ明らかにされていません。私は、発音器官を構成する軟組織の密度や音速を測ったり、通常オーディオ機器の性能評価に用いられる周波数応答測定をイルカの頭を丸ごと使って行ったりすることで、発音器官を構成する組織を音の媒質としてとらえ、周波数の特性を変化させるメカニズムを明らかにしようと試みてきました。

 私が現在在籍している七飯淡水実験所は、緑に囲まれた自然豊かな施設です。カエルの声、ツツジの花、虫の声、紅葉など、季節の移ろいを感じ取ることができる環境にあふれています。これまで調査といえば漂着鯨類の解剖調査がほとんどで、海岸にしか行ったことがなかった私にとっては、実験所の環境の何もかもが新鮮です。ここでは応用発生工学実習(公開水産科学実習)をはじめとする様々な実習が展開されており、魚類発生工学の基礎から応用までを、実際に手を動かしながら学ぶことができます。9月には、学部3年生向けの増養殖実習のお手伝いをしました。私は海洋生物科学科卒なので、増殖系の実習は初めてでしたが、学生たちに交じってTAや先生の説明を横目で見つつ、マイクロピペットを握って精子凍結に挑戦してみました。学部時代に実習に参加した時のすごい!面白い!と思う気持ちが蘇ると同時に、この気持ちを、一人でも多くの学生が安心して味わえるようにしていきたいと思いました。

 新型コロナウイルスの深刻な影響により、昨春・今夏の公開水産科学実習は中止を余儀なくされました。北海道は依然として予断を許さない状況であり、今後の実習についても慎重に検討していく必要があります。大学教育の現場におけるオンライン講義のノウハウそのものはこの1年でかなり蓄積されてきており、全国の研究者から貴重な講義がいつでも受けられるという魅力的な面も増えてきました。しかし、触感、におい、味、温度など、リモート講義ではどうしても得られない驚きがフィールド実習にはあります。特に公開水産科学実習は、水圏生物とそれらを取り巻く環境を五感で味わえるよう、拠点の先生方が趣向を凝らされてきたものであり、対面で受講してこその魅力が詰まっていると思います。少しでも早く、安心して実習ができる環境が戻ることを祈っています。

 これからも、実習を安全に継続していくノウハウの開拓と蓄積を目指して努力していきたいと思います。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

令和元年度にスタッフとして参加したバイオロギング実習での1コマ。魚にロガーを付け、大水槽に放流する直前の様子。

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Newsletter #24-3 森林伐採に伴い放出されたCO2を回収するために必要な時間

2020年12月22日

森林圏ステーション 天塩研究林 高木 健太郎

 森林圏ステーション天塩研究林では、国立環境研究所地球環境研究センターと北海道電力株式会社総合研究所との三者共同研究として、森林のCO2吸収量の観測を2001年に開始しました。この共同研究では、伐採や植林等の活動が森林のCO2吸収量に与える影響を長期的に定量観測することを主な目的としています。森林伐採前より観測を開始して(写真1)、その後、周囲約14 haの森林を2003年に伐採し(写真2)、同年に2年生のカラマツ(グイマツ雑種F1)を植林しました(写真3、4)。高さ30mの観測タワーをサイトの中心に建設して最上部に様々な観測機器を設置し、森林と上空大気との間でやり取りされるCO2量を継続観測しています(写真5)。今年この長期モニタリングのメモリアルな節目を迎えました。

 伐採前の森林は、光合成量と呼吸量の年積算値がほぼ拮抗していたものの若干光合成量の方が多く、CO2の弱い吸収源でしたが、伐採した年には、伐採前の吸収量の13年分を1年で放出するほど大きなCO2の放出源となりました。伐採によって生産された木材は丸太として生態系の外に運ばれましたが、切り株や枝葉等はその場に残されていたため、これら伐採残滓や土壌炭素の分解、植物の呼吸によるCO2の放出量が、林床植物や植栽木、天然更新した樹木の光合成量を大幅に上回ったためです。CO2の放出量が吸収量を上回る年は7年間続きましたが、伐採後8年目(2010年)にして、ようやく樹木や林床植物の光合成量が放出量を上回るようになりました。伐採後7年間の林床植物(ササ)の炭素の蓄積量は植栽木のそれの15倍以上にも及びました。ササの繁茂は植栽木の成長に対して弊害にはなるものの、この間のCO2吸収には大きな貢献をしていました。

 年単位では吸収源となった植林地ですが、伐採後18年目の今年(2020年)にようやく伐採直後7年間に放出したCO2を全て回収することができました(写真6)。樹木の現存量は伐採前の1割程度にまでしか回復していませんが、年間のCO2吸収量は4~7倍になっています。これまでの観測により、人間の活動は森林生態系の炭素循環にとても大きな、かつ長期に渡る影響を与えていることが定量的に明らかにされました。丸太として生態系外に搬出された炭素も植林地のCO2吸収により回収するとなるとさらに10年程の期間を必要とするでしょう。2015年より国立環境研究所との二者の共同研究となりましたが、今後も引き続き多くの研究者に参画していただいて、炭素に加えて様々な物質の循環特性と森林管理に対する応答を明らかにしていきたいと思っています。

写真6. 最近の植林地-紅葉したカラマツ (2017年10月)

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Newsletter #24-2 草でウシを飼う

耕地圏ステーション 静内研究牧場 河合 正人

 2021年、来年は丑年です。

 当センターでは2種類のウシが飼われていること、皆さんはご存じでしょうか。ひとつは札幌キャンパス内、生物生産研究農場で飼われているホルスタイン種です。酪農王国・北海道ではもっともたくさん飼われている、牛乳や乳製品の広告やコマーシャルでもよく目にする、白黒のあのウシです。もうひとつは静内研究牧場で飼われている肉用牛、日本短角種という品種のウシです。

写真1. 繁殖パドック:3月から5月にかけて毎年40頭前後の子牛が生まれてくる。

 日本短角種は和牛のひとつです。和牛といえば黒毛和種、と思われる方が多いでしょう。黒毛和種が和牛であって、他に和牛なんているの?という方もいるかもしれません。和牛とは、黒毛和種、褐毛和種、無角和種、日本短角種の4品種と、それらの交雑種のことを指します。現在、国内で肥育されている和牛の90%以上が黒毛和種ですから、和牛イコール黒毛、と思われても仕方ないかもしれません。が、このエッセイを読んでいただいた方には、是非、和牛には4つの品種があること、黒毛だけが和牛じゃない、ということを覚えていただければと思います。

 さて、日本短角種ですが、明治のはじめアメリカから輸入されて現在の岩手県に貸付されたショートホーンという肉用種を、旧南部藩の在来種南部牛に交雑したものが基になっています。現在は7,700頭余りが岩手県、秋田県、青森県、北海道を中心に飼養されており、そのうち1/4ほどの約1,900頭が北海道で飼われています。日本短角種の最大の特徴は粗飼料の利用性に富むことで、また放牧適正も高く、粗放な放牧でも野草を採食する能力が優れているとされています。粗飼料とは畜産用語で、草類、青刈り飼料作物、わら類などを指し、そこから調製した乾草やサイレージ(発酵飼料)など貯蔵飼料も含む、繊維成分が多い飼料のことです。対語として、繊維が少なくでんぷんやタンパク質など栄養濃度の高い飼料を濃厚飼料と呼び、穀実類、油粕類、ぬか類などがあります。つまり、日本短角種は、給与するエサを穀物に頼らなくても、草で飼うことができる品種なのです。

写真2. 親子放牧:5月から10月まで牧草放牧地に親子で終日放牧。 そのうち6~8月は種雄牛1頭を群れに入れて 自然繁殖させる。

 草でウシを飼う、当たり前じゃないか! と思っていませんか? ウシは、ウマやヒツジ、ヤギなどと同じ草食動物です。草を食べる動物なんだから草で飼う、というのは、実は今の日本では当たり前ではないんです。

 たとえば黒毛和種、生まれてから28カ月程度で体重700~750kgまで育ててお肉にするのに、一般的には濃厚飼料を4~6t与えます。ホルスタインの雄は、当然牛乳を出しませんから(去勢して)お肉にするのですが、もともと黒毛より体格が大きく、成長も早いので21カ月齢で750~800kgを目標に肥育し、この時やはり1頭あたり5~6tの濃厚飼料を与えます。ここに書いた重さはウシの体重であって、お肉の量ではありません。体重が750kgのウシからとれる精肉の量は200kgからせいぜい250kgほど。つまり、250kgの牛肉を生産するのに、その20倍、5tもの濃厚飼料を使っていることになります。しかもこの濃厚飼料、ほとんどが海外から輸入された穀物ですから、日本の食料自給率が低い原因として、輸入穀物に頼っている畜産の分野が最も悪者扱いされることも、ある程度は納得せざるを得ないでしょう。

 だからこそ、草で飼える家畜を草で飼う、という、ウシを家畜として飼う最大のメリットを、あらためて考えたいと思っています。ヒトが利用できない草を、ヒトが利用できる肉や乳に変えてくれる、という、ウシが持つすばらしい能力を最大限に発揮させること、静内研究牧場、そして生物生産研究農場も同じですが、我々が行なっている教育研究の原点はここにあります。

写真3. 子牛パドック:10月末日に離乳した子牛は翌春まで屋外パドックで粗飼料主体で飼う。

 黒毛和種に濃厚飼料を多給する飼養方式を、否定するわけではまったくありません。穀物飼料を多く与える黒毛和種の肥育方法は、日本人が編み出した、日本人の嗜好によく合う高級霜降り牛肉を生産するための、非常にすばらしい飼養技術です。一方で、穀物由来の飼料を極力与えないで、ウシが利用できる草を主体として生産した牛肉があってもいいのではないか、という提示です。草でウシを飼えば、穀物で飼う場合に比べて成長させるのに時間がかかります。生の牧草を食べると脂肪の色が黄色くなり、日本の規格では格付けが下がります。放牧地で運動すると肉は硬くなりますし、こうした飼い方ではもちろん霜降りなどほとんど入りません。しかし、高級な霜降り黒毛和牛とは対極にある牛肉として、静内研究牧場の日本短角種は春から秋までは放牧のみ、放牧に出せない冬の間も、場内で収穫した牧乾草と飼料用トウモロコシのサイレージを中心に与え、冬季および肥育時に給与する濃厚飼料の量も、我が国で肉用牛に与えられている一般的な量の1/4~1/5程度にまで減らしています。

写真4. 育成群:翌5月から10月までは再び牧草放牧地で終日放牧。
写真5. 肥育パドック:2夏目の放牧を終えた後、30カ月齢750kgを目標にして、穀物由来飼料は極力減らして肥育する。

 こうした特色ある飼い方で生産した静内研究牧場の日本短角種が、牛肉本来の旨味を味わうことのできるジューシーでヘルシーな牛肉として市民権を得られるよう、また日頃皆様の食卓に並んでいる畜産食品にも目を向けていただき、少しでも食について考えるきっかけとなってくれるよう、今後も教育研究に加え、普及にも力を入れていきたいと思っています。

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Newsletter #24-1 マイクロプラスチックが海洋生物に与える影響の研究

アマモ場に生息するアミ(Neomysis sp.)

2020年12月21日

水圏ステーション 厚岸臨海実験所 仲岡 雅裕

 プラスチックごみによる海洋汚染は世界中で進んでおり、2050年には世界の海のプラスチックごみの量は魚よりも多くなるとも予想されています。プラスチックごみが海洋生物に与える影響については、打ち上げられた海洋哺乳類や海鳥の胃から大量のプラスチックが見つかったり、ウミガメがプラスチックごみを誤飲して苦しんでいる映像などにより、その深刻性が広く認識されるようになってきましたが、それだけにはとどまりません。海に漂うプラスチックごみは紫外線や波、生物などによって細分化され、粒径が5 mm 以下のサイズになったものは「マイクロプラスチック」と呼ばれます。マイクロプラスチックはさまざまな小型の海洋動物に負の影響を与えることが明らかになりつつあります。

アマモ場に浮かぶプラスチックごみ(レジ袋)。長谷川貴章氏撮影。
写真1. アマモ場に浮かぶプラスチックごみ(レジ袋)。長谷川貴章氏撮影。

 厚岸臨海実験所では、マイクロプラスチックが海洋ベントス(底生動物)に与える影響に関する研究を2014年より続けています。これまで、イソタマシキゴカイ、キタノムラサキイガイ、キタイワフジツボなどさまざまな海洋ベントスを対象に、飼育水槽実験によりマイクロプラスチックの影響を評価する実験を行ってきました。その結果、マイクロプラスチックがベントスの摂食率や成長率、生存率に与える影響は、対象生物や季節により大きく変異することがわかってきました。その影響は、特に水温や海洋の懸濁物量などの条件に左右されることから、今後、水温上昇や富栄養化などの他の環境ストレスの変化と相互作用して、より深刻化する可能性も考えられます。

 石油製品であるプラスチックは化学的親和性からPCBやPAHに代表されるPOPs(残留性有機汚染物質)を吸着するとともに、臭素系難燃剤や紫外線吸収剤などの添加剤と呼ばれる多様な化学物質を含んでいます。これより、海洋ベントスはマイクロプラスチック自身が及ぼす物理的な影響だけでなく、化学物質にさらされる影響も同時に受けていることが指摘されています。さらに、二枚貝類や小型甲殻類などの無脊椎動物はより大型の海洋動物の餌となっており、食物連鎖を通じてマイクロプラスチックや化学物質が魚類や海鳥類などの高次消費者に移行し影響を与える可能性があります。この問題を明らかにするため、私たちは厚岸のアマモ場に生息するアミという小型甲殻類とシモフリカジカという底生魚類を用いた飼育実験に取り組んでいます。ここまでの結果では、シモフリカジカは水中から直接摂取するよりはるかに多くのマイクロプラスチックを餌であるアミを通じて取り込むこと、さらにアミが消化管内でマイクロプラスチックを破砕することにより、より小型になったマイクロプラスチックがシモフリカジカに取り込まれることがわかりました。現在は、添加剤を含むマイクロプラスチックを取り込んだアミをシモフリカジカに摂食させることにより、シモフリカジカ体内の化学物質各種の蓄積状況を調べる実験を実施中で、これにより食物連鎖を通じたマイクロプラスチックの海洋生物群集への影響を明らかにしていきたいと考えています。

写真2. アマモ場に生息するアミ(Neomysis sp.)。体長は1 cm程度。長谷川貴章氏撮影。
写真3. マイクロプラスチック(蛍光ビーズ)を取り込んだアミ。蛍光ビーズが取り込まれた胃の部分を白丸で示す。長谷川貴章氏撮影。

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雨龍研究林での研究が朝日新聞に紹介されました

2020年12月14日

12月12日付けの朝日新聞の北海道版に、「かき起こし」作業による、「カンバ林」への再生研究についての記事が掲載されました。

記事はウェブ版にもなっていますのでご覧ください。

https://www.asahi.com/articles/ASNDC76P4ND3IIPE008.html

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柴咲コウさんが雨龍研究林に来ました

2020年9月7日

女優の柴咲コウさんの公式YouTubeチャンネルで雨龍研究林が紹介されました。

柴咲コウと北海道を巡る旅 #3【潜入編】として、国産の木材を使った家づくりで、木材の原料となる樹木がどのように育てられ、どのように伐採されているかなど、雨龍研究林での事例を柴咲さんの目線でレポートされています。

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植物園の温室が開館しました

2020年7月14日

新型コロナウィルス感染症の拡大防止のため、6/16より屋外エリアに限って開園しておりましたが、 7/14(火)より温室が開館しました。なお、このほかの屋内施設(宮部金吾記念館、博物館、北方民族資料室)は閉鎖中です。入園料は、平常時と変更ありません。何卒ご了解のうえ、ご入園くださいますようお願い申し上げます。

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Newsletter #23-3 雨龍研究林でのドローンを使った林冠構造の研究 

2020年5月6日

森林圏ステーション 南管理部 柴田 英昭

 北海道を代表する天然林の特徴のひとつには常緑針葉樹と落葉広葉樹林が混在している針広混交林が挙げられます。また、それらの樹木と並んで下層植生としてササが生育しているのが一般的です。多くの針広混交林では樹木の分布はかなり不均一であり、それが北海道らしい天然林の独特の景観を形成しています。

 森林生態系には光合成による有機物生産と炭素固定、生態系の養分循環と水質形成など多様な生態系機能が備わっています。それらの機能を森林全体として理解するためには、森林の多様な空間構造を考慮に入れる必要があります。樹木の種類や配置、葉の分布や養分濃度などは対象とする森林ごとに異なっており、その形成要因も様々です。

写真1. 森林上空からドローンで撮影した林冠のようす

 当センター森林圏ステーションの雨龍研究林が位置する北海道北部には、トドマツやアカエゾマツなどの常緑針葉樹林に、ミズナラ、シラカンバ、イタヤカエデ他の落葉広葉樹林が針広混交林を形成しています。下層植生にはクマイザサやチシマザサが生育しています。この研究では、針広混交林の林冠(葉や枝が生い茂っている部分)の空間構造と、林冠葉に含まれる窒素濃度の空間分布を明らかにすることを目的として、環境科学院生物圏科学専攻の修士論文研究として実施されました(井上華央ら(2019)森林立地 61:1–13)。林冠の葉に含まれる窒素濃度は、樹木の光合成速度や生態系内での窒素循環の流れを理解する上で重要な指標であり、森林内の樹種構成やその空間分布によって、葉の窒素の分布も大きく変動することが知られています。しかしながら、森林内での地上観測を中心とした研究ではデータが得られる範囲が限られていて、広いスケールでの解析は容易ではありません。

写真2. ドローンからの写真と毎木調査データの重ね合わせ

 そこで本研究ではドローン(無人航空機;UAVとも呼ぶ)を使って森林上空から写真を撮影し(写真1)、その画像を三次元化することで林冠構造を定量化することを試みました。森林内には樹木の密度が低く、ササが密生しているエリアも存在していることから、三次元化した林冠高データを用いて、樹木とササの生育エリアを区分しました。また、常緑樹と落葉樹については着葉期と落葉期のデータを比較することで区分しています。さらに、ドローンで撮影した写真の色情報(赤・青・緑の構成)を用いて、葉に含まれる窒素濃度の違いを推定しました。その際には地上で直接採取・分析した葉の窒素濃度と写真の色情報との関係を別途解析し、その情報とドローンによる色データを組み合わせて推定しています。

 林冠構造の推定値の精度を検証するためには、雨龍研究林がこれまで精密に測定してきた流域全体の樹木に関する調査データ(毎木調査:樹木位置、樹種、枝張り、樹高など)が威力を発揮しました(写真2)。また、雨龍研究林の技術職員によるドローン操作やデータ解析に関する懇切なサポートも研究が円滑に進むための大切な要素でした。当センターの研究林フィールド、調査データ、技術スタッフの強みを生かした研究であり、今後も多様な空間構造をもつ森林生態系の物質循環分布、その機能評価に向けてさらなる発展を進めていきたいと考えています。

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Newsletter #23-2 博物館の標本は“生物”か? 

2020年5月4日

耕地圏ステーション 植物園 加藤 克

 北方生物圏フィールド科学センターの教員の中で、おそらく私だけが“生物”を研究対象としていないので、“動植物”エッセイの担当が回ってくるとは思ってもみませんでしたが、できる限り生物に近寄らせる形で私の研究対象を紹介したいと思います。

 私の研究材対象は、博物館に所蔵されている標本・資料の“情報”です。センターの博物館(写真1)は、1877(明治10)年に設立され、1884年に札幌農学校の博物館になってから130年以上の間大学博物館として活動してきました。大学博物館の所蔵標本は展示物としてみて学ぶためのものではなく、大学の研究活動の証拠として保存するとともに、新しい研究に利活用できるように管理されています(写真2)(写真3)。標本は生きてはいませんが、長期間保存・管理されることで過去の分布や遺伝情報、形態の変化を把握し、現在の生物をより深く理解するための材料になり得ます。

 例えば、博物館に所蔵されているシマフクロウ(HUNHM48054)(写真4)はおそらく北大キャンパス内で捕獲された現存する唯一の標本です。この標本が存在することで、過去に札幌の中心部にシマフクロウが生息していたことが確認されるだけでなく、最新の研究に利用されることで、現在の個体群との遺伝的な違いも見いだせることでしょう。過去にさかのぼって動物を捕獲することはできませんで、このような利用は博物館で保管され続けてきたからこそ可能になるものです。それゆえ、22世紀の研究者が21世紀初頭の生物の情報を利用できるように、研究林の現在の業務の一環で捕獲されたネズミを博物館で標本(写真5)にして、いつかは古くなる標本として利用できる準備を継続しているのです。

写真4. 北大キャンパス内で捕獲されたシマフクロウ
写真5. 収集・製作し続けている動物標本(研究林で捕獲されたもの)

 ただし、標本が研究材料として生き続けるためには条件があります。上述したシマフクロウは北大キャンパス内で捕獲されたことは確実ですが、残念ながら詳しい採集年次の情報が博物館の標本になるまでに欠落し、1940年代の採集としかわからなくなっています。こうなると、個体として死ぬだけでなく、研究資源としても価値が低下し、死蔵されることになってしまいます。“情報”こそが死んだ動物を100年、200年と生かし続けるうえで重要なものなのです。

 しかし、博物館の長い歴史の中で、管理者不在や情報の引継ぎの混乱のため、シマフクロウ標本と同様に採集情報が欠落したり、誤って記録されているものが多数確認されていて、標本を生かし続けるのに必要な“情報の欠落”が課題になっています。この課題に対して、私は過去の標本台帳(写真6)や研究者のフィールドノートをアーカイブとして管理して、それらを活用しながら欠落したり誤って記録された採集情報を信頼できる形で復元し、生物学研究に貢献する動物標本として恒久的に生かし続ける(動く物とする)ことを研究テーマにしています。

写真6. 1900年ごろに作成された標本管理簿

 最後に、標本を生かし続けるためにはもう一つ条件があります。それは、“標本を必要とする人”の存在です。利用されなければ、保管している意味が失われ、放棄されることになってしまいます。博物館には哺乳類、鳥類などの動物学標本だけでなく、考古学資料や民族学資料など多岐にわたる分野の資料が7万点近く保管されています。これらを1人で活用することなど不可能なので、標本や資料とその情報をマネジメントする業務を優先して、できる限り多くの研究者が利用しやすいようにしています。標本を積極的に利用していただき、生かし続けることに協力していただきたいと願っています。

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Newsletter #23-1 北海道の新しい林業にむけて 

2020年5月2日

森林圏ステーション 北管理部  吉田 俊也

 木材の利用には市場の「流行」があり、私が専門とする造林・育林の分野の研究はそれを後追いするのが常なのですが、樹木が育つ長期間のうちに、需要がまったく変化してしまうこともまた常であり、林業研究の宿命ともいえます。

 北海道の森林は林床にササ類が多く、伐採後の樹木の再生が大きな課題です。その対応策のひとつとして、重機を用いてササを根系ごと剥ぎ取る「掻き起こし」と呼ばれる作業があります。掻き起こしを行うと、多くの場合、周囲から散布された種子によってシラカンバまたはダケカンバが優占する二次林が成立することは広く知られていました(写真1)。しかし、シラカンバやダケカンバの材はパルプやチップなどの低質用途が中心で、それらを積極的に育成することはほとんどありませんでした。

写真1. 掻き起こし後に成立したシラカンバ二次林

 ところが、この数年、シラカンバやダケカンバが、急に脚光を浴びています。これまで欠点とされた強度の低さは使い方次第で克服できること、家具や床材として明るい材が好まれ、また誰もが知る「高原の木」としてイメージに優れること(写真2)、一方で、小径材でも利用できる技術(単板積層材)の開発も後押しになりました。ダケカンバを野球のバットに供するプロジェクトも始まり、研究林から試験用材を提供したところ(写真3)、約2年で、プロ野球の公式戦で使用されるまでに発展しました。ギターなど、楽器材としての利用も広がっています。

写真2. シラカンバのスツール:樹皮を使ったデザインが目を引きます
写真3. バット用に伐採したダケカンバ:プロ野球日本ハムの公式戦で使用されました

 タイミングがよかった、と思うのは、私たち研究林で、掻き起こしによるカンバ類の育成の画期となる技術開発が、ちょうど実を結んでいたことです。これは、約20年前、技術職員の発案で、掻き起こした表層土壌を、一定期間の後、施工地に敷き戻すという試みでした。「表土戻し」と私たちが呼ぶこの作業の効果は明らかで、通常の掻き起こしとの比較(20年生時)で、森林の蓄積は3-4倍に達していました(写真4)。この成長速度と、再生コストの低さは、一定の需要があることを前提とするならば、林業の主力である針葉樹人工林と比べて遜色のない森林経営が可能になることを意味します。そこで、私たちは、過去数十年にわたる実践の経験や調査地の存在と、技術スタッフが直営で木を伐採し丸太にする作業を行っていることを生かして、造林・育林のさらなる技術開発や作業の効率化、材質に関する研究を進めています(写真5)。

写真4. 通常の施工地(右)と表土戻し(左): 7年生の様子
写真5. 表土戻し: さまざまな条件で追試を重ねています

  最初に書いたように、カンバ類の利用は「流行」としてやってきました。現在の大きな課題は、この流れに乗りながら、取り組みを一過性にとどめないことです。シラカンバ、ダケカンバを主役とした森林管理は、成長の速さや再生の容易さ、コストの低さの面から、北海道林業の大きな柱のひとつになりえます。研究林では、現在、旭川周辺の家具工房や建築、デザイナー、自伐林家、研究者が構成する「白樺プロジェクト」と連携をはじめました。プロジェクトのキーワードは「持続可能性」と「恵みの多様さ」。前者は、上述した、シラカンバの特性・育成技術と関係します。一方、後者は、樹皮、樹液、葉、根など「一本丸ごと利用可能」であることを指しています(写真6)。これからも、研究林のフィールドと技術、そして研究を基礎に、森林と生活を結ぶ新しい産業・文化を育てたいと考えています。

写真6. シラカンバの樹皮:採取効率なども研究テーマにしています

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夏季開園変更・みどりの日無料開園中止のお知らせ

2020年4月23日

【夏季開園 変更】

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、夏季開園を下記のとおり変更いたします。
令和2年4月29日から5月8日までは臨時閉園。
令和2年5月9日(土)から庭園のみ開園。
宮部金吾記念館、博物館、北方民族資料室、温室は閉館いたします。
入園料は、平常時と変更ありません。

何卒ご了解の上、ご入園下さいますようお願い申し上げます。


【みどりの日無料開園 中止】

本年のみどりの日無料開園(5月4日)は中止いたします。

詳しくはこちらをご覧ください

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Newsletter #22-5 北方生物圏フィールド科学センターへの要望

2019年12月26日

大学院農学研究院 上田 宏一郎(センター外運営委員)

 私は、農学部および農学院において家畜飼養に関わる教育研究を担当しているため、当センターの耕地圏生物生産研究農場および静内研究牧場には年中お世話になっております。学生の実習や論文研究に恵まれた環境をご提供いただいていること、関連の教員と技術職員の皆様には平素から多大なるご支援を頂いていることに心より感謝申し上げます。

 私の担当している農学部畜産科学科の学生には、2年次に家畜生産実習を生物生産農場において通年で実施していただき、さらに学部3年次の夏季休業中には静内研究牧場において12日間の牧場実習を行っていただいています。それらは、様々な家畜(鶏、豚、乳牛、肉牛、馬)の家畜飼養に関わる理論と技術を、学生に実体験として理解させることのできる教育機関としては他大学に類を見ないものです。このような実習は、ただ単に飼育技術の経験だけでなく、現場での問題発見能力と解決能力の基本を習得させるために極めて重要な意味があります。さらに、学問や研究分野が細分化するなかでこそ、出発点がここにあることを学生に体得させ、北海道大学の卒業生だからこそのスキルを身につけた人材育成ができればと思っています。

 私は、主に乳牛の放牧飼養に関係する研究を、当農場の広い牧草地でさせていただいてます。5月から10月まで毎日放牧し、草の生産から乳の生産に至る過程を効率化するため、栄養、管理、行動、生態といった様々な観点から学生とともに研究しています。札幌市のど真ん中にもかかわらず、このような研究ができることは奇跡としか言いようがありません。写真のような乳牛が放牧される風景をこんな場所で見られることに驚く学外だけでなく学内の方も多いと思います。北海道においてさえ乳牛のほとんどは高泌乳を追求するため畜舎の中で穀類を多給して飼育されています。乳牛の放牧飼養はマイナーで理想といってもよいかもしれません。私としては、北海道大学のキャンパスの中で放牧飼養という酪農の理想像を追求する研究を行っていることに自負を感じつつ、それが北海道大学の歴史に裏打ちされた看板であり続けと確信しています。この放牧風景がここにあることが、目先の成果に翻弄されず理想追求の姿勢を学生に教育することにつながるとともに、北海道大学の重要な存立意義の一つであるはずです。

 このような恵まれた環境を維持するためには、農場の利用者の一人としてこのフィールドを用いた教育と研究において最大限の成果をあげることが責務であると考えており、そのために努力していきたいと思っています。当センター農場の運営状況は様々な面で厳しい状況にあることは承知しておりますが、上記のようなすばらしい意味を持つ実習環境と研究フィールドを今後とも維持していただきたくお願いいたします。

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Newsletter #22-4 新任教員紹介

2019年12月25日

水圏ステーション 厚岸臨海実験所 鈴木 一平

経歴:東京大学大学院(新領域創成科学研究科・自然環境学専攻)博士後期課程修了。博士(環境学)。専門は海棲哺乳類の行動生態学、潜水生理学。東京大学(大気海洋研究所・特任研究員)、北海道大学(北方生物圏フィールド科学センター・博士研究員)等を経て、平成30年11月より現職。

 はじめまして、2018年11月に文部科学省教育関係共同利用拠点の特任助教として厚岸臨海実験所に着任しました鈴木一平と申します。海洋生態系における高次捕食者のエネルギーバランスに興味を持ち、これまでは主に鰭脚類(アザラシ科やアシカ科)を対象とした行動生態学の研究を行ってきました。

 大学院時代は、小型記録計を動物に搭載するバイオロギング手法を用いることで水中での摂餌行動量や潜水によるエネルギー消費量を定量化するための手法開発に取組みました。水中での彼らの行動を直接観察することは困難ですが、バイオロギング手法により加速度や速度といった行動に由来するパラメーターとして数値化されたデータを取得できます。動物の下顎に取付けた加速度の記録計からは、餌生物を捕食する際の顎の上下運動が記録されます。また、背中に取付けた記録計の速度データと動物の形態情報から、任意の速度で泳ぐために必要なエネルギー消費量を算出できるという理論がありました。国内外で飼育されている鰭脚類を用いてそれら手法の検証実験を行い、野生個体の行動データからエネルギーの獲得量と消費量を定量化する手法を確立させました。学位取得後は、水中採血が可能な機器を用いて潜水時の代謝機構に関する内分泌学的な研究や、鰭脚類だけでなく鯨類も対象とした呼気計測による潜水生理学に関する研究を進めています。

 厚岸臨海実験所では夏季を主なシーズンとして、国内外の学部生や大学院生を対象とした約10件の実習が開催されています。実習の規模は数名から20名を超える場合もあり様々で、アマモ場や沿岸域での生物採集、演習船での海洋物理環境の測定を通して、海洋生態系の基盤となる初期生産量の測定法や植物プランクトンから小型魚類までの捕食-被捕食の食物網を実体験によって学べる内容となっています。また、他学部や他大学との共同実習では、海藻類の多様性解析や森と河川と海の関連性解析など、湿原河川から汽水域、海洋まで多様な水域生態系に囲まれた環境で、それぞれの違いと同時に繋がりに関する理解も深められます。体験できる分野が多岐にわたり、私自身も書物でしか見たことがなかったり、全く知らなかった手法を一緒に学ばせていただいています。

 陸域からの養分が豊富に流れ込む道東の沿岸域には、定住性の海棲哺乳類も存在します。今年度からは、大黒島や霧多布岬に生息するゼニガタアザラシやラッコを対象とした行動観察を一部の実習のプログラムに組込ませていただきました。高次捕食者による生態系に対するトップダウン効果に関する講義に加えて、「ある生命現象が見られるのはなぜか?」という行動生態学の基礎であるティンバーゲンの4つの問いから、各グループで課題を見つけ、複数ある目視観察の手法からどれを組み合わせることで、自分たちの問いに答えるためのデータを取得できるのかを体験してもらっています。臨海実験所で開催する実習や地元市民を対象としたアウトリーチ活動を通して、高次捕食者の役割や重要性と共に、多様な水域生態系が持つ魅力を一人でも多くの方に伝えられるよう努力していきたいと思います。今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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Newsletter #22-3 北大農場におけるカバークロップの研究 

耕地圏ステーション 生物生産研究農場 平田 聡之

 作物栽培の研究は、収穫物の増収や品質向上を最終目的としていますが、近年では環境に配慮した安定した作物生産への社会的要求が高まってきました。現代では、収量を低下させずに、化学合成物に頼らない、エネルギーや労力をかけない持続型作物生産が望まれています。その中で、圃場の耕うんを最小限にする不耕起栽培や圃場の生物環境や養分サイクルを改善するカバークロップの利用について研究が進められてきました。カバークロップは一般的にはその肥料効果に着目され、狭義の意味で「緑肥作物」として認識されていますが、収穫することを目的としない圃場環境を改善するために植えられる作物の総称を指しています。カバークロップには、土壌有機物の付加による土壌への物理的、化学的、生物的効果に加えて、過剰塩類の吸収による土壌悪化の防止や栄養塩の流亡の防止、特定の病原菌や雑草の抑制、景観向上などの効果があることが知られています。

 生物生産研究農場では、これまでトマトのハウス・露地栽培やコムギ栽培体系において、カバークロップの導入効果について調査してきました。北海道の作物栽培体系へカバークロップを導入する場合、大きな問題となるのは栽培可能期間が短いことです。北海道では、一年の1/3が積雪で覆われることから、野外での作物の栽培可能期間が限られています。カバークロップを導入した栽培体系の多くは、主作物の収穫後から次作物の播種までの間の期間にカバークロップを栽培する手法をとりますが、北海道ではそのような期間は2~3ヶ月に限られます。そのため北海道では、間期のカバークロップ(農学用語では後作緑肥といいます)としては初期生育が旺盛なイネ科やアブラナ科の利用が中心であり、窒素固定による土壌への窒素供給やリン吸収を促進する菌根菌の増殖など優れた効果を持つマメ科カバークロップを導入する場合は、主作物との輪作が主流でした。そこで私たちは、冷涼な環境下でも初期生育が早く、窒素固定能力が高いヘアリーベッチ(写真1)に着目し、後作緑肥としての効果を検証しました。また、ヘアリーベッチは大きく二つの生態型に分けられ、初期生育が早いが越冬能力の劣るスムースベッチ型と初期生育が劣るが越冬能力の高いヘアリーベッチ型があることが知られています。主作物収穫後の9月にヘアリーベッチを播種する場合、スムースベッチ型は4月に播種する作物(春小麦など)に、ヘアリーベッチ型は5月下旬以降に播種する作物(多くの畑作物種)にカバークロップとして有効であることがわかりました。

写真1.ヘアリーベッチ

 現在は、カバークロップ生育後の積雪下の効果に着目しています(写真2)。スムースベッチ型のヘアリーベッチは積雪下で死亡しますが、これまでの研究から低バイオマスにも関わらず、春先に高い窒素能力と雑草抑制効果があることを認めています。ヘアリーベッチは雑草抑制の効果が高い化学物質であるシアナミドを豊富に含んでいます。また、シアナミドの一部は土壌内で重合し、硝化作用阻害物質であるジシアンジアミドに変化する性質を持っています。これらの物質が積雪下で土壌環境にどのように影響するのか研究を進めています。

写真2.圃場試験の準備状況

オレンジシートは除雪区です。土壌凍結を促がすため降雪後にシート上を除雪します。

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