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母子里と出会う旅 2017冬 4月23日(日)

2017年4月12日

雪の中にある春を見つけにいこう

 

日時:2017423日 10時~17

集合場所:幌加内町母子里コミュニティセンター

定員:25名 

参加費:こども500円・おとな1000

申し込み締め切り:420日 (要事前申し込み)

詳しくは下記ファイルをダウンロードしてください。

 

2017冬母子里と出会う旅02

 

 

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Newsletter #23-3 雨龍研究林でのドローンを使った林冠構造の研究 

2020年5月6日

森林圏ステーション 南管理部 柴田 英昭

 北海道を代表する天然林の特徴のひとつには常緑針葉樹と落葉広葉樹林が混在している針広混交林が挙げられます。また、それらの樹木と並んで下層植生としてササが生育しているのが一般的です。多くの針広混交林では樹木の分布はかなり不均一であり、それが北海道らしい天然林の独特の景観を形成しています。

 森林生態系には光合成による有機物生産と炭素固定、生態系の養分循環と水質形成など多様な生態系機能が備わっています。それらの機能を森林全体として理解するためには、森林の多様な空間構造を考慮に入れる必要があります。樹木の種類や配置、葉の分布や養分濃度などは対象とする森林ごとに異なっており、その形成要因も様々です。

写真1. 森林上空からドローンで撮影した林冠のようす

 当センター森林圏ステーションの雨龍研究林が位置する北海道北部には、トドマツやアカエゾマツなどの常緑針葉樹林に、ミズナラ、シラカンバ、イタヤカエデ他の落葉広葉樹林が針広混交林を形成しています。下層植生にはクマイザサやチシマザサが生育しています。この研究では、針広混交林の林冠(葉や枝が生い茂っている部分)の空間構造と、林冠葉に含まれる窒素濃度の空間分布を明らかにすることを目的として、環境科学院生物圏科学専攻の修士論文研究として実施されました(井上華央ら(2019)森林立地 61:1–13)。林冠の葉に含まれる窒素濃度は、樹木の光合成速度や生態系内での窒素循環の流れを理解する上で重要な指標であり、森林内の樹種構成やその空間分布によって、葉の窒素の分布も大きく変動することが知られています。しかしながら、森林内での地上観測を中心とした研究ではデータが得られる範囲が限られていて、広いスケールでの解析は容易ではありません。

写真2. ドローンからの写真と毎木調査データの重ね合わせ

 そこで本研究ではドローン(無人航空機;UAVとも呼ぶ)を使って森林上空から写真を撮影し(写真1)、その画像を三次元化することで林冠構造を定量化することを試みました。森林内には樹木の密度が低く、ササが密生しているエリアも存在していることから、三次元化した林冠高データを用いて、樹木とササの生育エリアを区分しました。また、常緑樹と落葉樹については着葉期と落葉期のデータを比較することで区分しています。さらに、ドローンで撮影した写真の色情報(赤・青・緑の構成)を用いて、葉に含まれる窒素濃度の違いを推定しました。その際には地上で直接採取・分析した葉の窒素濃度と写真の色情報との関係を別途解析し、その情報とドローンによる色データを組み合わせて推定しています。

 林冠構造の推定値の精度を検証するためには、雨龍研究林がこれまで精密に測定してきた流域全体の樹木に関する調査データ(毎木調査:樹木位置、樹種、枝張り、樹高など)が威力を発揮しました(写真2)。また、雨龍研究林の技術職員によるドローン操作やデータ解析に関する懇切なサポートも研究が円滑に進むための大切な要素でした。当センターの研究林フィールド、調査データ、技術スタッフの強みを生かした研究であり、今後も多様な空間構造をもつ森林生態系の物質循環分布、その機能評価に向けてさらなる発展を進めていきたいと考えています。

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Newsletter #23-2 博物館の標本は“生物”か? 

2020年5月4日

耕地圏ステーション 植物園 加藤 克

 北方生物圏フィールド科学センターの教員の中で、おそらく私だけが“生物”を研究対象としていないので、“動植物”エッセイの担当が回ってくるとは思ってもみませんでしたが、できる限り生物に近寄らせる形で私の研究対象を紹介したいと思います。

 私の研究材対象は、博物館に所蔵されている標本・資料の“情報”です。センターの博物館(写真1)は、1877(明治10)年に設立され、1884年に札幌農学校の博物館になってから130年以上の間大学博物館として活動してきました。大学博物館の所蔵標本は展示物としてみて学ぶためのものではなく、大学の研究活動の証拠として保存するとともに、新しい研究に利活用できるように管理されています(写真2)(写真3)。標本は生きてはいませんが、長期間保存・管理されることで過去の分布や遺伝情報、形態の変化を把握し、現在の生物をより深く理解するための材料になり得ます。

 例えば、博物館に所蔵されているシマフクロウ(HUNHM48054)(写真4)はおそらく北大キャンパス内で捕獲された現存する唯一の標本です。この標本が存在することで、過去に札幌の中心部にシマフクロウが生息していたことが確認されるだけでなく、最新の研究に利用されることで、現在の個体群との遺伝的な違いも見いだせることでしょう。過去にさかのぼって動物を捕獲することはできませんで、このような利用は博物館で保管され続けてきたからこそ可能になるものです。それゆえ、22世紀の研究者が21世紀初頭の生物の情報を利用できるように、研究林の現在の業務の一環で捕獲されたネズミを博物館で標本(写真5)にして、いつかは古くなる標本として利用できる準備を継続しているのです。

写真4. 北大キャンパス内で捕獲されたシマフクロウ
写真5. 収集・製作し続けている動物標本(研究林で捕獲されたもの)

 ただし、標本が研究材料として生き続けるためには条件があります。上述したシマフクロウは北大キャンパス内で捕獲されたことは確実ですが、残念ながら詳しい採集年次の情報が博物館の標本になるまでに欠落し、1940年代の採集としかわからなくなっています。こうなると、個体として死ぬだけでなく、研究資源としても価値が低下し、死蔵されることになってしまいます。“情報”こそが死んだ動物を100年、200年と生かし続けるうえで重要なものなのです。

 しかし、博物館の長い歴史の中で、管理者不在や情報の引継ぎの混乱のため、シマフクロウ標本と同様に採集情報が欠落したり、誤って記録されているものが多数確認されていて、標本を生かし続けるのに必要な“情報の欠落”が課題になっています。この課題に対して、私は過去の標本台帳(写真6)や研究者のフィールドノートをアーカイブとして管理して、それらを活用しながら欠落したり誤って記録された採集情報を信頼できる形で復元し、生物学研究に貢献する動物標本として恒久的に生かし続ける(動く物とする)ことを研究テーマにしています。

写真6. 1900年ごろに作成された標本管理簿

 最後に、標本を生かし続けるためにはもう一つ条件があります。それは、“標本を必要とする人”の存在です。利用されなければ、保管している意味が失われ、放棄されることになってしまいます。博物館には哺乳類、鳥類などの動物学標本だけでなく、考古学資料や民族学資料など多岐にわたる分野の資料が7万点近く保管されています。これらを1人で活用することなど不可能なので、標本や資料とその情報をマネジメントする業務を優先して、できる限り多くの研究者が利用しやすいようにしています。標本を積極的に利用していただき、生かし続けることに協力していただきたいと願っています。

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Newsletter #23-1 北海道の新しい林業にむけて 

2020年5月2日

森林圏ステーション 北管理部  吉田 俊也

 木材の利用には市場の「流行」があり、私が専門とする造林・育林の分野の研究はそれを後追いするのが常なのですが、樹木が育つ長期間のうちに、需要がまったく変化してしまうこともまた常であり、林業研究の宿命ともいえます。

 北海道の森林は林床にササ類が多く、伐採後の樹木の再生が大きな課題です。その対応策のひとつとして、重機を用いてササを根系ごと剥ぎ取る「掻き起こし」と呼ばれる作業があります。掻き起こしを行うと、多くの場合、周囲から散布された種子によってシラカンバまたはダケカンバが優占する二次林が成立することは広く知られていました(写真1)。しかし、シラカンバやダケカンバの材はパルプやチップなどの低質用途が中心で、それらを積極的に育成することはほとんどありませんでした。

写真1. 掻き起こし後に成立したシラカンバ二次林

 ところが、この数年、シラカンバやダケカンバが、急に脚光を浴びています。これまで欠点とされた強度の低さは使い方次第で克服できること、家具や床材として明るい材が好まれ、また誰もが知る「高原の木」としてイメージに優れること(写真2)、一方で、小径材でも利用できる技術(単板積層材)の開発も後押しになりました。ダケカンバを野球のバットに供するプロジェクトも始まり、研究林から試験用材を提供したところ(写真3)、約2年で、プロ野球の公式戦で使用されるまでに発展しました。ギターなど、楽器材としての利用も広がっています。

写真2. シラカンバのスツール:樹皮を使ったデザインが目を引きます
写真3. バット用に伐採したダケカンバ:プロ野球日本ハムの公式戦で使用されました

 タイミングがよかった、と思うのは、私たち研究林で、掻き起こしによるカンバ類の育成の画期となる技術開発が、ちょうど実を結んでいたことです。これは、約20年前、技術職員の発案で、掻き起こした表層土壌を、一定期間の後、施工地に敷き戻すという試みでした。「表土戻し」と私たちが呼ぶこの作業の効果は明らかで、通常の掻き起こしとの比較(20年生時)で、森林の蓄積は3-4倍に達していました(写真4)。この成長速度と、再生コストの低さは、一定の需要があることを前提とするならば、林業の主力である針葉樹人工林と比べて遜色のない森林経営が可能になることを意味します。そこで、私たちは、過去数十年にわたる実践の経験や調査地の存在と、技術スタッフが直営で木を伐採し丸太にする作業を行っていることを生かして、造林・育林のさらなる技術開発や作業の効率化、材質に関する研究を進めています(写真5)。

写真4. 通常の施工地(右)と表土戻し(左): 7年生の様子
写真5. 表土戻し: さまざまな条件で追試を重ねています

  最初に書いたように、カンバ類の利用は「流行」としてやってきました。現在の大きな課題は、この流れに乗りながら、取り組みを一過性にとどめないことです。シラカンバ、ダケカンバを主役とした森林管理は、成長の速さや再生の容易さ、コストの低さの面から、北海道林業の大きな柱のひとつになりえます。研究林では、現在、旭川周辺の家具工房や建築、デザイナー、自伐林家、研究者が構成する「白樺プロジェクト」と連携をはじめました。プロジェクトのキーワードは「持続可能性」と「恵みの多様さ」。前者は、上述した、シラカンバの特性・育成技術と関係します。一方、後者は、樹皮、樹液、葉、根など「一本丸ごと利用可能」であることを指しています(写真6)。これからも、研究林のフィールドと技術、そして研究を基礎に、森林と生活を結ぶ新しい産業・文化を育てたいと考えています。

写真6. シラカンバの樹皮:採取効率なども研究テーマにしています

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Newsletter #22-5 北方生物圏フィールド科学センターへの要望

2019年12月26日

大学院農学研究院 上田 宏一郎(センター外運営委員)

 私は、農学部および農学院において家畜飼養に関わる教育研究を担当しているため、当センターの耕地圏生物生産研究農場および静内研究牧場には年中お世話になっております。学生の実習や論文研究に恵まれた環境をご提供いただいていること、関連の教員と技術職員の皆様には平素から多大なるご支援を頂いていることに心より感謝申し上げます。

 私の担当している農学部畜産科学科の学生には、2年次に家畜生産実習を生物生産農場において通年で実施していただき、さらに学部3年次の夏季休業中には静内研究牧場において12日間の牧場実習を行っていただいています。それらは、様々な家畜(鶏、豚、乳牛、肉牛、馬)の家畜飼養に関わる理論と技術を、学生に実体験として理解させることのできる教育機関としては他大学に類を見ないものです。このような実習は、ただ単に飼育技術の経験だけでなく、現場での問題発見能力と解決能力の基本を習得させるために極めて重要な意味があります。さらに、学問や研究分野が細分化するなかでこそ、出発点がここにあることを学生に体得させ、北海道大学の卒業生だからこそのスキルを身につけた人材育成ができればと思っています。

 私は、主に乳牛の放牧飼養に関係する研究を、当農場の広い牧草地でさせていただいてます。5月から10月まで毎日放牧し、草の生産から乳の生産に至る過程を効率化するため、栄養、管理、行動、生態といった様々な観点から学生とともに研究しています。札幌市のど真ん中にもかかわらず、このような研究ができることは奇跡としか言いようがありません。写真のような乳牛が放牧される風景をこんな場所で見られることに驚く学外だけでなく学内の方も多いと思います。北海道においてさえ乳牛のほとんどは高泌乳を追求するため畜舎の中で穀類を多給して飼育されています。乳牛の放牧飼養はマイナーで理想といってもよいかもしれません。私としては、北海道大学のキャンパスの中で放牧飼養という酪農の理想像を追求する研究を行っていることに自負を感じつつ、それが北海道大学の歴史に裏打ちされた看板であり続けと確信しています。この放牧風景がここにあることが、目先の成果に翻弄されず理想追求の姿勢を学生に教育することにつながるとともに、北海道大学の重要な存立意義の一つであるはずです。

 このような恵まれた環境を維持するためには、農場の利用者の一人としてこのフィールドを用いた教育と研究において最大限の成果をあげることが責務であると考えており、そのために努力していきたいと思っています。当センター農場の運営状況は様々な面で厳しい状況にあることは承知しておりますが、上記のようなすばらしい意味を持つ実習環境と研究フィールドを今後とも維持していただきたくお願いいたします。

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Newsletter #22-4 新任教員紹介

2019年12月25日

水圏ステーション 厚岸臨海実験所 鈴木 一平

経歴:東京大学大学院(新領域創成科学研究科・自然環境学専攻)博士後期課程修了。博士(環境学)。専門は海棲哺乳類の行動生態学、潜水生理学。東京大学(大気海洋研究所・特任研究員)、北海道大学(北方生物圏フィールド科学センター・博士研究員)等を経て、平成30年11月より現職。

 はじめまして、2018年11月に文部科学省教育関係共同利用拠点の特任助教として厚岸臨海実験所に着任しました鈴木一平と申します。海洋生態系における高次捕食者のエネルギーバランスに興味を持ち、これまでは主に鰭脚類(アザラシ科やアシカ科)を対象とした行動生態学の研究を行ってきました。

 大学院時代は、小型記録計を動物に搭載するバイオロギング手法を用いることで水中での摂餌行動量や潜水によるエネルギー消費量を定量化するための手法開発に取組みました。水中での彼らの行動を直接観察することは困難ですが、バイオロギング手法により加速度や速度といった行動に由来するパラメーターとして数値化されたデータを取得できます。動物の下顎に取付けた加速度の記録計からは、餌生物を捕食する際の顎の上下運動が記録されます。また、背中に取付けた記録計の速度データと動物の形態情報から、任意の速度で泳ぐために必要なエネルギー消費量を算出できるという理論がありました。国内外で飼育されている鰭脚類を用いてそれら手法の検証実験を行い、野生個体の行動データからエネルギーの獲得量と消費量を定量化する手法を確立させました。学位取得後は、水中採血が可能な機器を用いて潜水時の代謝機構に関する内分泌学的な研究や、鰭脚類だけでなく鯨類も対象とした呼気計測による潜水生理学に関する研究を進めています。

 厚岸臨海実験所では夏季を主なシーズンとして、国内外の学部生や大学院生を対象とした約10件の実習が開催されています。実習の規模は数名から20名を超える場合もあり様々で、アマモ場や沿岸域での生物採集、演習船での海洋物理環境の測定を通して、海洋生態系の基盤となる初期生産量の測定法や植物プランクトンから小型魚類までの捕食-被捕食の食物網を実体験によって学べる内容となっています。また、他学部や他大学との共同実習では、海藻類の多様性解析や森と河川と海の関連性解析など、湿原河川から汽水域、海洋まで多様な水域生態系に囲まれた環境で、それぞれの違いと同時に繋がりに関する理解も深められます。体験できる分野が多岐にわたり、私自身も書物でしか見たことがなかったり、全く知らなかった手法を一緒に学ばせていただいています。

 陸域からの養分が豊富に流れ込む道東の沿岸域には、定住性の海棲哺乳類も存在します。今年度からは、大黒島や霧多布岬に生息するゼニガタアザラシやラッコを対象とした行動観察を一部の実習のプログラムに組込ませていただきました。高次捕食者による生態系に対するトップダウン効果に関する講義に加えて、「ある生命現象が見られるのはなぜか?」という行動生態学の基礎であるティンバーゲンの4つの問いから、各グループで課題を見つけ、複数ある目視観察の手法からどれを組み合わせることで、自分たちの問いに答えるためのデータを取得できるのかを体験してもらっています。臨海実験所で開催する実習や地元市民を対象としたアウトリーチ活動を通して、高次捕食者の役割や重要性と共に、多様な水域生態系が持つ魅力を一人でも多くの方に伝えられるよう努力していきたいと思います。今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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Newsletter #22-3 北大農場におけるカバークロップの研究 

耕地圏ステーション 生物生産研究農場 平田 聡之

 作物栽培の研究は、収穫物の増収や品質向上を最終目的としていますが、近年では環境に配慮した安定した作物生産への社会的要求が高まってきました。現代では、収量を低下させずに、化学合成物に頼らない、エネルギーや労力をかけない持続型作物生産が望まれています。その中で、圃場の耕うんを最小限にする不耕起栽培や圃場の生物環境や養分サイクルを改善するカバークロップの利用について研究が進められてきました。カバークロップは一般的にはその肥料効果に着目され、狭義の意味で「緑肥作物」として認識されていますが、収穫することを目的としない圃場環境を改善するために植えられる作物の総称を指しています。カバークロップには、土壌有機物の付加による土壌への物理的、化学的、生物的効果に加えて、過剰塩類の吸収による土壌悪化の防止や栄養塩の流亡の防止、特定の病原菌や雑草の抑制、景観向上などの効果があることが知られています。

 生物生産研究農場では、これまでトマトのハウス・露地栽培やコムギ栽培体系において、カバークロップの導入効果について調査してきました。北海道の作物栽培体系へカバークロップを導入する場合、大きな問題となるのは栽培可能期間が短いことです。北海道では、一年の1/3が積雪で覆われることから、野外での作物の栽培可能期間が限られています。カバークロップを導入した栽培体系の多くは、主作物の収穫後から次作物の播種までの間の期間にカバークロップを栽培する手法をとりますが、北海道ではそのような期間は2~3ヶ月に限られます。そのため北海道では、間期のカバークロップ(農学用語では後作緑肥といいます)としては初期生育が旺盛なイネ科やアブラナ科の利用が中心であり、窒素固定による土壌への窒素供給やリン吸収を促進する菌根菌の増殖など優れた効果を持つマメ科カバークロップを導入する場合は、主作物との輪作が主流でした。そこで私たちは、冷涼な環境下でも初期生育が早く、窒素固定能力が高いヘアリーベッチ(写真1)に着目し、後作緑肥としての効果を検証しました。また、ヘアリーベッチは大きく二つの生態型に分けられ、初期生育が早いが越冬能力の劣るスムースベッチ型と初期生育が劣るが越冬能力の高いヘアリーベッチ型があることが知られています。主作物収穫後の9月にヘアリーベッチを播種する場合、スムースベッチ型は4月に播種する作物(春小麦など)に、ヘアリーベッチ型は5月下旬以降に播種する作物(多くの畑作物種)にカバークロップとして有効であることがわかりました。

写真1.ヘアリーベッチ

 現在は、カバークロップ生育後の積雪下の効果に着目しています(写真2)。スムースベッチ型のヘアリーベッチは積雪下で死亡しますが、これまでの研究から低バイオマスにも関わらず、春先に高い窒素能力と雑草抑制効果があることを認めています。ヘアリーベッチは雑草抑制の効果が高い化学物質であるシアナミドを豊富に含んでいます。また、シアナミドの一部は土壌内で重合し、硝化作用阻害物質であるジシアンジアミドに変化する性質を持っています。これらの物質が積雪下で土壌環境にどのように影響するのか研究を進めています。

写真2.圃場試験の準備状況

オレンジシートは除雪区です。土壌凍結を促がすため降雪後にシート上を除雪します。

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Newsletter #22-2 コンペイトウ 

2019年12月24日

水圏ステーション 臼尻水産実験所 宗原 弘幸

写真1. ヤリカジの卵塊

 “金平糖”。令和天皇即位の儀式で招待客への引き出物に入っていたという、あのイボイボの砂糖菓子のことです。特異な形状から生き物を表す場面でよく使われています。たとえばヤリガジの卵。写真を用意しましたが、金平糖のような形状と記すだけで、イメージしてもらえるでしょう(写真1)。この形状は、卵と卵の間を広げて、胚への酸素供給効率を高くするのに役立ちます。尖ったイボでは、産卵までは間違いなく邪魔です。一般的な魚類同様に、卵巣のなかでは卵は球形で、イボができるのは産卵のあとからです。イボができる仕組みは、高張の海水に触れることと関係していますが、その先は調べていません。それがわかって何の役に立つの?そんな突っ込みを嫌ったわけではなく、2011年にロシアの標本に基づき新種記載され、その翌年に臼尻で見つかった希少種なので、見つけてもそっとしておきたいからです。

写真2. コンペイトウの雄

 ずばり、コンペイトウと名付けられた魚もいます。こちらはやや深みにいるダンゴウオの仲間です。2010年に巻貝の空き殻に産みつけられた卵とその世話をしているコブフウセンウオの雄とともに生きたまま採集されて、臼尻実験所に送られてきました。水産実験所ですので、海産生物の飼育施設があります。そこで卵が孵化した後の稚魚を2年間、育てました。以前から疑わしいことはわかっていました。実際に、一つの卵塊から生まれた稚魚の成長の軌跡を追うと、なんと形態の違いで3つのタイプに分かれました。予想を超えていました。3つのタイプのうちの一つは、典型的なコンペイトウで、体にコブ状の突起が飛び出し背鰭も皮下に埋没しました(写真2)。このような形態の個体はすべて雌でした。雄になった個体は、小さい間は多少のコブがあり、卵の時代に保護してくれた父親そっくりのコブフウセンウオになりました。さらに数か月すると、コブが消えて、ナメフウセンウオと呼ばれている種に変身する個体もあらわれました(写真3)。ダンゴウオの仲間は、皮膚がぶよぶよしている種ばかりで、特徴的なコブが分類の決め手に使われます。しかし、コブが性別や成長段階で変化する場合もあって、同様なケースがこれまでにもありました。この魚は、命名規約の約束事にしたがってEumicrotremus asperrimus が有効名として残り、他の2種につけられていた学名はシノニムとして無効になることを2015年に報告しました。E. asperrimus は、標準和名にコンペイトウと付けられている種です。覚えやすい名称が残るのはよかったのかも知れませんが、イボイボを持たない雄もコンペイトウと呼ばれることになります。御用達の金平糖でも製造過程でバッタもんは出るようですから、まあいいか。

写真3.イボ状突起が消失したコンペイトウの雄

(写真はいずれも阿部拓三博士)

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Newsletter #22-1 シカの大地・北海道 

森林圏ステーション 苫小牧研究林 揚妻 直樹

 蝦夷地が北海道に改名されて150年が経ちました。節目の年にあたり、様々な関連イベントが開催されました。北海道の名付け親とされる松浦武四郎の足跡をたどるドラマや特集番組も放映されています。その武四郎が北海道中を探検していた頃、そこには一体、どんな自然が広がっていたのでしょうか?そして、エゾシカやヒグマなどの野生動物はどんな暮らしをしていたでしょうか?

 私は当時の北海道に、どのくらいシカが棲んでいたか推定してみました。1873年から1882年まで、シカの年間捕獲数の記録が残っていたので、いったい何頭のシカが存在すれば、そんなふうな捕獲数が実現可能かを計算してみたのです。その結果、1873年時点で50~70万頭となりました。ただ、この値には当時、闊歩していたオオカミたちが捕食したシカの数や、温暖化以前の厳しい冬によって今以上に死んでいたシカの数が含まれていません。これらの死亡要因も考慮すると、実際にはこの値よりはるかに多くのシカが棲んでいたのは確実です。100万頭近く居たのかもしれません。一方、近年のエゾシカの生息数は50~60万頭と推定されているようです。つまり、もともとの北海道の自然からすれば、現状のシカの数は決して多くないのです。ところが、現在シカは増え過ぎてしまい、生態系を不自然に改変していると考えられています。現状認識に大きなギャップがあります。

 そんなにシカが多かった150年前の自然はどんな姿をしていたのでしょう?それは北海道本来の生態系や生物多様性の保全を考える基礎となります。北海道では高山や湿地などを除けば森林に覆われると考えがちです。ところが、1858年に武四郎は美瑛から富良野にかけて20×48kmの草原が、十勝には40×60kmのすすき原が広がっていたと記録しています。そんな大草原はどうやって成立したのでしょう?アイヌの人々が意図的に草地を作っていたと考える方もいるかと思います。しかし、農耕や牧畜を大規模に行っていなかった彼らが大草原を作る理由は見あたりません。その時代に大量のシカが生息していたことを考えれば、その高い採食圧によって森林が発達せず広大な草原が維持されていた可能性があります。

 では、森はどうだったでしょうか?シカが多かった頃の影響が残っている1930年の支笏湖御料林の壮齢林の構造が調査されています。その森林では優占種のエゾマツは太さ30~40cmの木が最も多く、それより小さな木が少ない、いわゆるベル型と言われる構造をしていたのです。現在、ベル型構造は更新が阻害された“不健全”な森の特徴とみなされています。しかし、もともとの森林はベル型構造で維持・更新されていた可能性がありそうです。“健全”な森林構造についても見直す必要が出てくるかもしれません。

 この50~60年間、森林動態や生物多様性について多くの知見が集められてきました。実はその期間の大半が日本中でシカがとても少なかった時代にあたります。つまり、研究者は植物にとって捕食者不在の生態系を精力的に調べていたわけです。しかし、かつてのようにシカが多いのが普通の自然だとしたら、既存の知見だけでは本来の自然の姿を理解することはできないでしょう。

 苫小牧研究林では森の中に柵を設置してシカを排除したり、高密度化させる実験を15年間継続してきました。シカ排除実験はシカの生態系機能を解明するのに有効なので、各地で行われてきました。大抵の場合、シカ排除区と比べ、シカ生息区で植物量が減少し、種組成も変ってきます。そこから、シカがいかに生態系に悪影響をもたらすかという議論をしがちです。でも、生態系の構成要素であるシカを全くいなくしたシカ排除区は明らかに不自然な状態です。そこと違うからと言って、悪影響だと判断するのは原理的に不可能です。むしろ、これからはシカが棲んでいる区画において、シカが多かったころの自然の姿をどうやって理解していくかが、生態学としての課題になってくるでしょう。

苫小牧研究林のミズナラ林に設定したシカ排除区(左)、自然密度区(中)、高密度化区(右)の植生

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水産学部生向け実習が行われています。

2019年10月29日

函館市国際水産・海洋総合研究センター タッチプール

 本分野の研究テーマの一つであるバイオロギングについて、分野の実質的拠点である函館市国際水産・海洋総合研究センターへ函館キャンパスから借り上げバスで移動してきた水産学部生に対して実習授業が本日行われています。

 写真は、函館市国際水産・海洋総合研究センター内部より撮影したものですが、センサー(ロガー)を装着した活魚をタッチプール(深さ数メートル)に放流したところを、主に水産学部生が取り囲んで見物しているところです。

 放流した魚はしばらく泳がせた後、回収されます。回収されたロガーのデータは、後日、函館キャンパスにおいて実習授業における解析用データとなります。

 例年、この時期には同様の実習が見られますが、何年もその光景をみていると、イコール「晩秋の風物詩」として感じることもあり、冬支度を始めなければならない季節になったともしみじみ思うところです。

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ワールドクリーンアップデー

2019年9月2日

9月21日に厚岸臨海実験所主催の海岸清掃イベントを開催します。ご興味のある方は、worldcleanupday.akkeshi@gmail.comに代表者氏名と電話番号、参加人数をお知らせください。

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係留系の組立作業

2019年6月18日

 現在、知床半島沖に投入する係留系の組立作業を行っています。係留系は、海の定点観測 (海中の状況も含む) を行うために使用されます。

 センサー類を各種海中深度(海面から100m、200m…など)において使用するため、センサー類をワイヤー等でつなぎ合わせます。完成すると、一直線の数珠繋ぎ状になります。完成した係留系が、どれくらいの長さかといえば、場合によっては海面から海底までの距離となりますので、海底が深い場所に設置した場合はそれなりの長さとなります。

係留系の部品
係留系に繋ぐ黄色の物体

 係留系は長期間海に放置されることになるので、下準備が重要です。特にワイヤー本体やセンサーの接続部がサビなどで、一箇所でも切れてしまうと、切れた先を回収するのは大変困難になります。ワイヤーの素材選びにも工夫が必要です。

係留系の組み立て作業

 黄色い物体の中にはガラス玉が入っており、係留系を安定して海中に沈めるために重要となります。これらをワイヤー(鎖)でつないで今日の作業は完了ですが…。

 先生、何をしているんですか?  「窒素を注入しています。」

 実はこの円筒状の物体は海中音の録音装置です。これを海中に投入すると当然温度が下がります。温度が下がると、録音装置内に結露が発生し、装置に悪影響を及ぼすため、結露の原因となる水蒸気をあらかじめ窒素に置換することや、録音装置自体の凍結を防止する対策として窒素を封入している…のだそうです。

海中音の録音装置
ネットにくるまれている部分(画面中央)がマイク集音部分
円筒部分(左側)がバッテリー入りの音声記録装置部分

 このような地道な作業を繰り返し、係留系調査の準備は進んでいきます。一つ間違えると調査の全体に支障をきたすため、試行錯誤の日々は続きます。

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  • 生態系変動解析分野

三谷曜子准教授がクラウドファンディングに挑戦しています!

生態系変動解析分野の三谷曜子准教授が、シャチの生態調査のためのクラウドファンディングを募集しました。

https://readyfor.jp/projects/hokudai-shiretoko-orca

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Newsletter #21-4 

2019年6月5日

水圏ステーション 室蘭臨海実験所 本村 泰三

 今年も暖かい春になり、室蘭の海も例年通り沢山の色とりどりの海藻が目に付くようになった。まだ若く小さなコンブやホンダワラも順調に生育している。海藻研究の醍醐味の一つは、生活環制御であると思ってきた。例えば、褐藻コンブ類は巨視的な胞子体と微視的な雌雄配偶体の世代が交代する。我々が親しんでいるコンブは胞子体で、北海道室蘭では9月から12月にかけて成熟し、減数分裂を経た後に、長さ10ミクロンにも満たない遊走子が放出される。遊走子は鉄を含まない人工合成培地中でわずか数mmの小さな糸状の雌雄配偶体に発生し、直径約20ミクロン程度の卵と5ミクロン程度の精子による有性生殖は行われる。この受精卵が1年も経たないうちに長さ数メートルの胞子体に成長する。このサイクルのどこかが断線すると所謂コンブは生まれない。

 陸上と異なり、海中では可視光の中で短波長の青色光が深所まで到達できる。そのため、海中はブルーワールドとなる。褐藻や珪藻が属するストラメノパイル系統群(遊泳細胞が長短2本の鞭毛を有し、長い前鞭毛に細かい毛を有する真核細胞の一つのグループ)では、一連の形態形成において青色光はキーとなる。例えば、上述したコンブの雌雄配偶体が成熟するには、鉄とともに青色光が必須となる。数年前に、この青色光受容体タンパク質としてオーレオクロームが発見された。また、多くの褐藻の遊走子や配偶子は青色光に対して正または負の走光性を示すが、この場合の受容体タンパク質として鞭毛に存在するヘルムクロームが発見されている。青色光刺激に対する海藻のレスポンスは、生命が海洋において誕生し様々な生物に変化したことを考えると理解できる。このような刺激反応の分子メカニズムは、結局は陸上生物に受け継がれていくことになる。

 また、波あたりの強い沿岸域を生活の場としている海藻は、それに適応した細胞壁多糖を有している。硬いセルロース繊維含量は少なく、紅藻では寒天やカラゲナン、褐藻ではアルギン酸とフカン、緑藻でも硫酸化された独特な多糖類を有している。これにより、海の中で波にまかせたしなやかな動きを生み出している。近年のゲノム情報解読から、褐藻のアルギン酸合成経路は緑膿菌などからの遺伝子水平伝搬であろうと推定されている。

 2010年、2015年に褐藻シオミドロとマコンブの全ゲノム情報が明らかになった。現在では、フランス・ロスコフ臨海実験所のメンバーを中心に50種類を超える褐藻のゲノムを明らかにする国際的プロジェクトが進行しており、数年のうちに発表されるはずである。海藻が持つユニークな性質や環境適応能力に関して分子レベルで解明できる時代がそう遠くない未来に訪れる。

写真は、モニタリング1000でお世話になっている瀬戸内海区水産研究所の島袋寛盛博士に提供して頂いた。

写真1. 太陽からの光を受けるマコンブ。海はブルーワールド。
写真2. 陸上の森のように、海中も陽の当たらない場所はかなり暗い。

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Newsletter #21-3 雪の表情

2019年5月27日

森林圏ステーション 中川研究林 野村 睦

写真1. 積雪の成層状態。断面にインクを散布し鮮明にしています。(雨龍研究林 積雪深は約2m)

 北海道北部は、最大積雪深が2メートルを超える豪雪地帯で根雪期間も半年に及び、積雪が森林や水循環などに大きな影響を与えています。このため、雨龍研究林で冬季に行なわれている農学部森林科学科の実習では、森林の調査のほかに積雪の観測が組み込まれています。積雪調査は、まずは穴を掘り断面を作ることが始めです。そうすることで、地層を観察するように積雪の堆積状況を知ることができます(写真1)。

 豪雪地帯は北海道北部に限りません。本州では北陸以北の日本海側は積雪量で言えば北海道を超える多雪域です。山形大学の上名川演習林もそのような場所にあり、そこでは同大農学部が積雪を調べる実習を行なっています。筆者は、ここ数年、その実習に参加し調査に協力してきました。やることは同じ、とにかく学生にはがんばって穴を掘ってもらうことです(写真2)。

写真2. 積雪の観察の様子。3メートルを超える深さのために、はしごを使っています。(山形大学上名川演習林)

 穴を掘ってみると、北海道と山形では雪粒子の形(雪質)が大きく異なり断面の様相がだいぶ違うことがわかります。山形の積雪は、北海道北部では融雪後期に見られるような粒の大きな「ざらめ雪」が大半を占めています。厳冬期に気温がほとんどプラスにならない寒冷地の積雪は、「新雪」の状態から、粒子が丸く圧縮された「しまり雪」を経て、春になり水を含んで肥大化した「ざらめ雪」へと雪質が変わっていきます。ところが、冬であってもプラスの気温や雨が珍しくない地域では、一気に「ざらめ雪」になるようです。積もりながら解けるとも言えるかもしれません。1月の日最高気温の平均をみると、雨龍研究林は-5℃、上名川は+1℃程度です。

 もちろん、初めて山形大の実習に参加する前から、「ざらめ雪」が多いであろうことは、気象データからも十分に予測していました。が、予測を超える「ざらめ雪」状態でした。真冬の雪解けや降雨の予測、あるいはそれに由来する水による積雪への影響は扱いが難しい問題です。その水が土壌面まで水が到達すれば、洪水や地すべりにも関わり、温暖地の積雪域では注目されている現象です。北海道北部の場合、真冬であれば積雪が寒冷なため多少の水であれば積雪内ですぐに再凍結してしまい、今のところあまり問題にはなっていません。

 ここまで、北海道北部と山形の積雪について、穴を掘って調べてみたその内面をお話しましたが、穴を掘るまでもない外面の違いもあります。雪のない地域から山形を訪れた人ならば雪面の白さを強く感じるでしょう。しかし、北海道の人はそうではないかもしれません。後者には一理あります。雪は水を含むと日射の反射率が大きく下がるからです。まぶしさに欠けるといった感じでしょうか。冬季の気候が温暖化に向かえば、外面であれ内面であれ北海道の雪の表情が変わるかもしれません。

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Newsletter #21-2 湿地の保護・保全に欠かせない基盤情報「湿地目録」を作成する

2019年5月20日

耕地圏ステーション 植物園 冨士田 裕子

 近年、人間活動による湿地の消失や劣化、生態系の攪乱などが急速に進行し、湿地は世界中で危機的な状況におかれている。地球上の湿地の64%から71%は20世紀に失われたと推定され(Davidson 2014)、今なお世界各地で消失と劣化が続いている。日本も同様で、本州以南の沖積平野や盆地に存在した湿地の多くが、古くから水田や宅地へと転換され消失してきた。現存湿地面積の9割近くが集中する北海道においてさえ、元の面積の約7割が明治時代に始まった開拓や大規模農地開発などで消失している(図1)。

図1 北海道の湿地面積の変化

 湿地は生物多様性のホットスポットの一つで、水質改善、洪水等における緩衝作用、炭素の貯蔵、地域特有の景観を形成するなど、多くの利点や機能を持つ重要な生態系である。世界的にも湿原の保護と保全、再生は、人類共通の喫緊課題となっている。ところが、湿地の保護・保全に欠かせない基盤情報である、「どこに、どんなタイプの湿地が、どれだけの面積存在するのか」を明示する湿地目録(wetland inventory)が作成され、さらに生息する生物の情報、水文や土壌、水質などの物理化学的な環境要素情報、保全のための法的規制等の指定状況といった様々な情報を整備したデータベースが構築されている国は多くない。日本にも実は、信頼できるレベルの目録は存在していない。 

 そこで1997年に湿地研究者が主体となって北海道湿地目録を作成した(冨士田ほか 1997)。既存の資料、文献、報告書、聞き取り調査などから北海道内の面積1ha以上の湿地をリストアップし、面積、標高、湿地タイプといった基礎情報に加え、湿地の保護状況などの情報を含む目録である。しかし、北海道湿地リスト1997も湿地の範囲については不正確で、実際は土地開発により面積が減少していたり、乾燥化によってもはや湿地ではない場所も含まれているなど、現実に即した確認作業が必要とされてきた。湿地範囲が不正確だったのは、撮影年が古いモノクロ写真を多数使用したこと、判読経験値の異なる複数の人間が湿地範囲を判定したことが原因と考えられた。一方、2005年以降、解像度の高い無償の空中写真の公開、国土地理院地図の公開、有償のカラー空中写真の充実などにより、これらをGIS上で組み合わせることで、湿地の判読精度は以前とは比較にならないほど向上した。

 そして、試行錯誤しながら数年かけて新しい「北海道湿地目録2016」を作成した。新しい目録では、1997版で150箇所だった湿地は、180箇所に増えた。これは、山岳地域の人の目に触れない湿地などを、空中写真で確認・抽出することができたからである。また、データベースを活用して保全状況や健全性を評価したり、他のGISデータとの組み合わせで湿地とその周辺地域の土地利用上のリスクを評価するなど、様々なことが出来るようになった。

 湿地目録の作成は、地味で根気のいる作業だが、研究成果としてはなかなか評価されない。しかし誰にでも作成できるものではなく、湿地を知る研究者主体でないと作れない。湿地の保全や施策立案に大いに寄与する目録が完成して、湿地研究者としては胸をなでおろしている。

写真1 大雪山沼ノ平湿原の四ノ沼の様子(ドローンにより撮影)
写真2 大雪山平ケ岳南方湿原のケルミ-シュレンケ複合体.ケルミ(凸部)とシュレンケ(水のたまった凹部)が縞状に並ぶ.

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Newsletter #21-1 新任教員紹介

2019年4月26日

水圏ステーション 七飯淡水実験所 山崎 彩

経歴:北海道大学大学院環境科学院生物圏科学専攻博士後期課程修了。博士(環境科学)。専門は魚類の分子系統、進化学。日本学術振興会特別研究員、東北大学博士研究員、北海道大学学術研究員を経て平成30年7月より現職 。

ベロ(カジカの一種)とヤドカリ@臼尻
ベロ(カジカの一種)とヤドカリ@臼尻

 初めまして。平成30年7月に文部科学省教育関係共同利用拠点の特任助教として七飯淡水実験所に着任しました山崎彩と申します。私はこれまで、北の海に生息するカジカ類の分子分類や寒冷地適応の研究を行ってきました。また、国内河川に生息するニホンウナギの保全に関する研究も行っています。

 学生時代には臼尻水産実験所で6年もの歳月を過ごし、季節を問わず研究のために北の海に潜ってはカジカ採集に明け暮れました。海氷や流氷に覆われる海域では、不凍対策をもたない種に環境中の氷核が作用すると、体細胞中の水分が凍結し、死んでしまいます。しかし、寒帯〜亜寒帯に生息する種は、不凍タンパク質の発現により体細胞内にできた氷核の成長を抑制するため、氷が存在する海域でも生存できるのです。学位取得時には、世界各地で冬季に採集したカジカ類の筋肉中に含まれる不凍タンパク質の活性測定に加え、各種が発現させている不凍タンパク質の遺伝子配列を決定することで、カジカ科魚類の寒冷適応を明らかにしました。また、ダイビングで撮りためた水中写真を使って生き物図鑑を作成したり、イカの着ぐるみを作って子供たちへの科学教育に使用したりと、アウトリーチ活動にも力を入れました。他にも、人工イクラ作りや煮干しの解剖、クジラの食性等の出前授業も行いました。これらの活動は、子供たちに科学に対して興味を持ってもらいたいとの思いから自主的に取り組んできました。

 最近は、環境DNA手法を用いて国内河川におけるニホンウナギの分布域を特定する調査・研究に携わっています。近年マリアナ海溝での産卵場が特定されたばかりの本種ですが、実は国内河川での分布域すら明らかにされていません。環境DNAによる生物の分布調査は近年急速に発展した研究手法です。環境中に存在する微量のDNAやその断片を検出するため、例えば水を汲むだけで、その周辺に生息する種を特定できます。この技術は生物を直接捕獲する必要がないため、絶滅危惧種や捕獲が困難な種の分布調査、あるいは生物相調査に利用されています。生物の採集には多大な労力と種判別の専門知識を要しますが、環境DNAはより簡便に行うことができます。今後はこの手法を本拠点の実習に取り入れ、実習生らに最先端の研究を体験してもらいたいと考えています。

 七飯淡水実験所・臼尻水産実験所・忍路臨海実験所で行われる実習は発生工学からバイオロギングまで取り扱う分野が幅広く、私自身未知な分野もあるため、実習を通して一緒に学ばせていただいています。本拠点を利用する学生らが将来の日本の水産科学を担う人材になりたいと希望してくれることを願いつつ、一人でも多くの学生に水圏生物の魅力を伝えられるよう本拠点の業務に邁進していきたいと思います。今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。

ニホンウナギ調査での採水@福島県
ニホンウナギ調査での採水@福島県

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天塩研究林で利用者セミナーをおこないました

2019年3月19日

天塩研究林では、毎年2月に研究林を利用した研究者や学生が発表をおこなう、「フィールド利用者セミナー」を開催しています。利用者は本学のみならず、他大学や研究機関など幅広く活用されています。今年は2月20日におこなわれ、下記プログラムを「植物の話」「土の話」「熊の話+α」のサブタイトルで三つのパートに分けて発表が進められました。

  • 天塩研究林長 高木 健太郎 准教授
     開会のことば
  • 小樽商科大学 片山 昇 准教授
     ヒトによる「いじめ」から山菜が回復するまでの軌跡
  • 北大環境科学院 河上 智也 博士1年
     トドマツの根っこはライバルにの存在で変体する?
  • 北大農学研究院 北条 愛 博士3年
     二つの衛星で森林生長量の推定はできるのか?
  • 北大工学院 茂木 透 特任教授
     なぜ道北地域で地震がおこるのか
  • 北大環境科学院 小林 高嶺 博士1年
     森林の炭素と鉄の動きは季節と関係してる?
  • 北大環境科学院 植村 茉莉恵 修士2年
     冬の森林の土壌養分(窒素)はどうなるか?
  • 北大ヒグマ研究グループ 伊藤 泰幹(北大文学部3年)
     北大クマ研の2018年調査結果
  • 北大文学部 松本 朋華 学部4年
     今どきのヒグマとヒトのご近所付き合い
  • 北大農学研究院 玉井 裕 准教授
     きのこの山計画進行中 -天塩林を宝の山に
  • 北大CoSTEP 朴 炫貞 特任助教
     森とアート
  • 天塩研究林 芦谷 大太郎 森林保全技術班長
     閉会のことば

このセミナーは普段フィールドを支える技術職員や森林技能職員を対象としているもので、職員が管理しているフィールドでどのようなことがおこなわれているのか?また、職員のサポートがどのように生かされ、役だったかを深く知る機会になっています。こうした機会は日頃縁の下の力持ちとして働く職員にとっては貴重な時間であり、仕事に対する誇りや今後の研究協力に対する大きな原動力にも繋がっていきます。

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Newsletter #20-4 ジャイアントミスカンサスの道内への普及を目指して

2019年2月19日

耕地圏ステーション 生物生産研究農場 山田 敏彦

 約10年前にはバイオマスのブームがあり、植物資源からバイオエタノールを製造する動きが北海道にもありましたが、いったんブームは静まりました。しかし、最近、バイオマスが話題に上るようになってきました。人類が直面している温室効果ガス削減の対策には、バイオマスの積極的な利活用がやはり不可欠です。低温条件でも高いバイオマス生産が可能で、肥料がほとんど不要であるなどの利点から、寒冷地のバイオマス資源作物としてススキ属(Miscanthus)が近年、注目され、特に、二倍体のススキ(M. sinensis)(2n=38)と四倍体のオギ(M. sacchariflorus)(2n=76)との自然交雑した三倍体雑種のジャイアントミスカンサス(M. x giganteus)(GM)の栽培面積が欧米では増加してきています。北大農場でもGMを長期間にわたり栽培し、その能力を調査しました。その結果、平均25.6 ±0.2トンha-1-1の高い乾物生産を実証できました(写真1)。また、土壌炭素貯留量は1.96 ± 0.82 トンha-1-1 であり、森林での値より高く、資源作物としてGMを栽培することにより、温室効果ガスを削減できる機能があることを明らかにしました(Nakajima et al. 2019, Carbon Management)。GMは地上部分が十分に枯れる晩秋から早春にかけて収穫を行います。北海道では冬季多雪地帯であるために、雪解け後に刈取らなければなりません。幸い、GMは風雪が強い冬季間でも倒れない特性があることがわかりました(写真2)。現在、北海道各地に資源作物のGMを普及させることを目指して、各地に試験栽培を開始したところであります。バイオ燃料の原料としての利用にはまだ技術的にハードルが高いため、当面はペレットとしての燃焼利用を考えています。地域に賦存する木質や稲わらなどのバイオマスとGMを混合したペレットの試作なども検討しています。燃料原料以外の用途として、家畜敷料としての利用があげられます。木質バイオマス高騰のため、家畜敷料不足が深刻な問題になっています。また、昨今話題のプラスチック削減のための代替素材としても注目されています。一方、農業の生産現場での従事者の高齢化、労働力不足に伴い、農地条件が悪い場所等で耕作放棄地の増加が予想されています。そのため、農地の有効利用の一つとして、栽培が容易で省力的なGMを栽培し、いろいろなバイオマス資材用途に利用されることを期待しているところです。

写真1.北大農場で生育しているジャイアントミスカンサス(11月)

写真2.北大農場で生育しているジャイアントミスカンサス(1月)

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Newsletter #20-3 FSCトピック 甚大な台風被害を受けた和歌山演習林

2019年2月15日

 和歌山県にある北海道大学の和歌山研究林は8月23日の台風20号で大きな被害を受けました。林道が30か所あまり崩落し、実習・調査用の資材や用具600点以上が河川の氾濫で流失するという、研究林設立以来もっとも壊滅的な被害でした。

台風20号の猛烈な雨

 8月23日、 強い台風20号が和歌山県に接近し、危険回避のため研究林スタッフは全員自宅待機となりました。夜には、周辺で1時間に120ミリ以上の猛烈な雨が降ります。その後、研究林庁舎のある平井集落内の道路が、平行して流れる平井川の氾濫のため、同時に2か所が陥没しました。集落外へのアクセス路3本のうち2本が断たれる非常事態となりました。

 雨が収まったのは25日、研究林庁舎と上流部にある研究林を結ぶ国道371号線が崩壊したとの情報がもたらされます。

路肩と護岸が崩壊した林道
(平成30年8月28日撮影)
路肩が崩壊した国道
(平成30年8月28日撮影)

甚大な被害状況

 現在は被害総額を算定中ですが、流失した資材や林道の被害を全て含めると、数千万円単位にのぼる見通しです。

 和歌山研究林がある紀伊半島は毎年頻繁に台風が来ます。そのため、台風が接近する可能性があるときは、大水で流されたり、風で飛ばされたりしないよう用具・資材類は、建物や物置の中など安全な場所に避難させます。今回も同様の対応を行っていましたが、それでも甚大な被害となりまいりました。

土石流で損壊・流出した倉庫
(平成30年8月28日撮影)

土石流に埋まってしまったモノレール
(平成30年8月28日撮影)

現在の復旧状況

 研究林庁舎がある平井集落と下流にある市街地をつなぐ道は、3本のうち2本が陥没により通行不能になりましたが、9月下旬になってようやく陥没していた1本の仮復旧が完了し、平時とそう変わりのない交通事情へと戻ることができました。

 その一方で、上流域にある研究林へのアクセスはいまだ大きく制限されたままです。国道371号線の少なくとも4か所が大きく崩壊しており、自動車で研究林へは近付くことができません。国道の復旧は現在ようやく着工したところで、2019年春頃までには研究林入口まで行われる見通しとなっていますが、研究林内については崩壊の規模が大きく、完全復旧がいつ頃になるのか、未定のままです。

研究林からのメッセージ

 今年は台風に限らず悪天候が続き、研究林へ近付くことすらままならない日々が続きました。このため復旧作業はあまり進展していません。ただ、このような状況でも一部の学生実習や野外調査は、研究林スタッフがしっかりと安全管理を行ったうえで受け入れを続けています。研究林スタッフはポジティブな姿勢を持ち続けて前に進んでいることを広く知っていただけるととても嬉しく思います。

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Newsletter #20-2 北方生物圏フィールド科学センターへの要望

2019年2月7日

北海道大学病院 松野 吉宏(センター外運営委員)

 北方生物圏フィールド科学センターの外部運営委員を拝命してもうすぐ2年が経過します。平素の業務のうえで直接お世話になることもほとんどなく、貴センターについて知るところの乏しかった小生にとっては、新鮮でもあり、しかしどこか懐かしさや親しみも感じられる発見や気づきの2年間でありました。

 貴センターは本学の「本学らしさ」をもっとも色濃く備えている部局のひとつと言えるのではないでしょうか。分野違いから来る無知を恐れず申し上げれば、森林圏、水圏、耕地圏の各ステーションにおいて維持管理されている、北海道なればこその教育・研究環境を生かし、本学らしい魅力ある情報発信や社会への提言、次世代への継承を着実に今後もお進めいただきたいと期待しております。そして国内外の研究者たちにも研究のフィールドとして広く活用されている実情を、学内はもちろん、市民や社会へも上手にアピールしていただきたいと思います。

 貴センターの「本学らしさ」は市民にもわかりやすく、北大植物園をはじめ子供たちや一般市民にとってもっとも身近な「北海道大学」もまた貴センターではないでしょうか(その次は北海道大学病院かもしれません)。その立ち位置を生かし、大学が行う高度な学術研究や教育と、市民生活や次代を担う子供たちの憧れとの間をつなぐ役割を大切にしていただきたいと思います。小生自身、小学生のころ函館の実家近くにあった水産学部の、ある若手(だったのでしょう)研究者のもとに訪問させてもらう機会があり、実験ベンチサイドで「プランクトンのお話」から食物連鎖のいかなるものかを聞かせていただきながら、はじめて大学や研究者というものに触れて子供心に覚えた興奮や感激、そしてその場面は半世紀を経過した今でもフラッシュバックしてまいります。現在、貴センターにおかれてもさまざまなアウトリーチ活動が行われているようですが、これからも市民や子供たちに夢を与える開かれたセンターであっていただきたいと思います。

 そうは申しても、フィールドの強みを生かした諸活動も現実には採算の取れるものばかりではないようですし、教職員の確保や施設の管理などを含め教育研究環境の維持自体にかかるご苦労も並大抵ではないことも知りました。すでに実績のある自治体はもちろんのこと、過去のある時期とは異なって、地域再生や環境保全などには国内外のさまざまな企業などの関心も増しているのではないかと感じます。今後はそうした社会的なうねりを機敏にキャッチして、研究や諸活動を広い枠組みで展開する機会も増やしていけるのかもしれない、と思うこともあります。

 小生も、人並みにストレスフルな日々を過ごしてはときに北大植物園を散策し、深呼吸しながら空を見上げて癒される教職員の一人です。本学の北海道大学らしさが一層輝きを増すように、多少大げさに申せばその象徴と言ってもよいかもしれない貴センターの活動に今後も注目してまいりたいと思います。貴センターの益々のご発展を祈念しております。

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