Newsletter #23-3 雨龍研究林でのドローンを使った林冠構造の研究 

森林圏ステーション 南管理部 柴田 英昭

 北海道を代表する天然林の特徴のひとつには常緑針葉樹と落葉広葉樹林が混在している針広混交林が挙げられます。また、それらの樹木と並んで下層植生としてササが生育しているのが一般的です。多くの針広混交林では樹木の分布はかなり不均一であり、それが北海道らしい天然林の独特の景観を形成しています。

 森林生態系には光合成による有機物生産と炭素固定、生態系の養分循環と水質形成など多様な生態系機能が備わっています。それらの機能を森林全体として理解するためには、森林の多様な空間構造を考慮に入れる必要があります。樹木の種類や配置、葉の分布や養分濃度などは対象とする森林ごとに異なっており、その形成要因も様々です。

写真1. 森林上空からドローンで撮影した林冠のようす

 当センター森林圏ステーションの雨龍研究林が位置する北海道北部には、トドマツやアカエゾマツなどの常緑針葉樹林に、ミズナラ、シラカンバ、イタヤカエデ他の落葉広葉樹林が針広混交林を形成しています。下層植生にはクマイザサやチシマザサが生育しています。この研究では、針広混交林の林冠(葉や枝が生い茂っている部分)の空間構造と、林冠葉に含まれる窒素濃度の空間分布を明らかにすることを目的として、環境科学院生物圏科学専攻の修士論文研究として実施されました(井上華央ら(2019)森林立地 61:1–13)。林冠の葉に含まれる窒素濃度は、樹木の光合成速度や生態系内での窒素循環の流れを理解する上で重要な指標であり、森林内の樹種構成やその空間分布によって、葉の窒素の分布も大きく変動することが知られています。しかしながら、森林内での地上観測を中心とした研究ではデータが得られる範囲が限られていて、広いスケールでの解析は容易ではありません。

写真2. ドローンからの写真と毎木調査データの重ね合わせ

 そこで本研究ではドローン(無人航空機;UAVとも呼ぶ)を使って森林上空から写真を撮影し(写真1)、その画像を三次元化することで林冠構造を定量化することを試みました。森林内には樹木の密度が低く、ササが密生しているエリアも存在していることから、三次元化した林冠高データを用いて、樹木とササの生育エリアを区分しました。また、常緑樹と落葉樹については着葉期と落葉期のデータを比較することで区分しています。さらに、ドローンで撮影した写真の色情報(赤・青・緑の構成)を用いて、葉に含まれる窒素濃度の違いを推定しました。その際には地上で直接採取・分析した葉の窒素濃度と写真の色情報との関係を別途解析し、その情報とドローンによる色データを組み合わせて推定しています。

 林冠構造の推定値の精度を検証するためには、雨龍研究林がこれまで精密に測定してきた流域全体の樹木に関する調査データ(毎木調査:樹木位置、樹種、枝張り、樹高など)が威力を発揮しました(写真2)。また、雨龍研究林の技術職員によるドローン操作やデータ解析に関する懇切なサポートも研究が円滑に進むための大切な要素でした。当センターの研究林フィールド、調査データ、技術スタッフの強みを生かした研究であり、今後も多様な空間構造をもつ森林生態系の物質循環分布、その機能評価に向けてさらなる発展を進めていきたいと考えています。