Newsletter #22-5 北方生物圏フィールド科学センターへの要望

大学院農学研究院 上田 宏一郎(センター外運営委員)

 私は、農学部および農学院において家畜飼養に関わる教育研究を担当しているため、当センターの耕地圏生物生産研究農場および静内研究牧場には年中お世話になっております。学生の実習や論文研究に恵まれた環境をご提供いただいていること、関連の教員と技術職員の皆様には平素から多大なるご支援を頂いていることに心より感謝申し上げます。

 私の担当している農学部畜産科学科の学生には、2年次に家畜生産実習を生物生産農場において通年で実施していただき、さらに学部3年次の夏季休業中には静内研究牧場において12日間の牧場実習を行っていただいています。それらは、様々な家畜(鶏、豚、乳牛、肉牛、馬)の家畜飼養に関わる理論と技術を、学生に実体験として理解させることのできる教育機関としては他大学に類を見ないものです。このような実習は、ただ単に飼育技術の経験だけでなく、現場での問題発見能力と解決能力の基本を習得させるために極めて重要な意味があります。さらに、学問や研究分野が細分化するなかでこそ、出発点がここにあることを学生に体得させ、北海道大学の卒業生だからこそのスキルを身につけた人材育成ができればと思っています。

 私は、主に乳牛の放牧飼養に関係する研究を、当農場の広い牧草地でさせていただいてます。5月から10月まで毎日放牧し、草の生産から乳の生産に至る過程を効率化するため、栄養、管理、行動、生態といった様々な観点から学生とともに研究しています。札幌市のど真ん中にもかかわらず、このような研究ができることは奇跡としか言いようがありません。写真のような乳牛が放牧される風景をこんな場所で見られることに驚く学外だけでなく学内の方も多いと思います。北海道においてさえ乳牛のほとんどは高泌乳を追求するため畜舎の中で穀類を多給して飼育されています。乳牛の放牧飼養はマイナーで理想といってもよいかもしれません。私としては、北海道大学のキャンパスの中で放牧飼養という酪農の理想像を追求する研究を行っていることに自負を感じつつ、それが北海道大学の歴史に裏打ちされた看板であり続けと確信しています。この放牧風景がここにあることが、目先の成果に翻弄されず理想追求の姿勢を学生に教育することにつながるとともに、北海道大学の重要な存立意義の一つであるはずです。

 このような恵まれた環境を維持するためには、農場の利用者の一人としてこのフィールドを用いた教育と研究において最大限の成果をあげることが責務であると考えており、そのために努力していきたいと思っています。当センター農場の運営状況は様々な面で厳しい状況にあることは承知しておりますが、上記のようなすばらしい意味を持つ実習環境と研究フィールドを今後とも維持していただきたくお願いいたします。