Newsletter #19-4 自然エネルギー研究からの学び

2018年6月22日

耕地圏ステーション 生物生産研究農場 荒木 肇

 再生可能エネルギーの農業活用について、工学部から作物残渣のエネルギー資源化の研究依頼があり、北大農場で産出される作物残渣の所持熱量測定や粉砕、ペレット化の可能性調査が、自然エネルギー研究の始まりだった。地元業者からの依頼もあり、夕張温泉のボイラー室からの余剰熱と温泉廃湯(熱交換温水)とをハウス内と内部のベッドに導入して、冬季アスパラガスを試みた。ホテル社長や地元の設備会社社長が、自らの施設や道具でシステムをつくり、厳冬期でもハウス内暖房なしにアスパラが生産された。

 夏に雪冷熱や冬季に堆肥熱にチャレンジした。夕張市の閉校学校活用事業で、厚生労働省からの補助事業で、その一部には自然エネルギーによる体育館での野菜生産が含まれていた。自然熱源から人間が活用する熱量を獲得するには大量の雪や堆肥が必要である。「雪を使うと省エネ」「雪は代替冷熱源」には間違いないが、それを実現するには「研究施設」を作成してからの研究になる。上述の事業費から、雪冷熱は設備会社が地下雪室(L4.5xW3.6xH2.7m)を製造し、体育館内にアスパラガスやチコリーの栽培ベッドを利用させていただいた。

 チコリーは根株を定植して15℃で萌芽して食用にするが、20℃では葉が結球せず、10℃では葉が伸長しない。温度制御を研究するには好適な材料である。雪室からベッドへの冷熱輸送は雪室底部とベッド間に循環パイプを設置し、冷水循環で対応した。つまり冷水がベッドに行き、そこで暖められた水は雪下で冷却されて、またベッドに導く方法である。

 調査を継続すると種々の課題がでてきた。「室中の雪が7月で融けてしまった」。雪室といっても、壁には断熱材を貼り、地温伝導を抑制、融水はポンプでくみ上げ等の工夫をしているが、こればかりは雪量で解決するしかない。結局データを採取した年は25万円を払って美唄から雪を購入した。次に「冷水は来るがベッドは冷えない」。冷水はベッドの壁面を通過する。ベッドにも断熱材を底面・側面・天井に設置しているおり、ベッドおいたハウス内も地中熱の冷風を流している。地中からの冷風は地上にあがるとすぐに高温になる(空気の比熱はたいへん小さい)。周囲が25℃以上なら、断熱材を貼っていても、ベッド内部の気温は冷やせない。盛夏に雪冷熱でチコリーをつくる試みは失敗したが、「栽培箇所の断熱と培地の直接冷却」の重要性を認識した。あたりまえのことがやっとわかったのである。

 翌年は栽培室(断熱材で囲う、L1.8xW1.8xH2.4m)をつくり、この内部に地下3mの地中熱を導入するが、その導入パイプも断熱材被覆。栽培室内部には培養液を循環させる水耕装置を設置し、培養液中に雪冷水パイプを直接導入。結果としてこの方法は盛夏でも培養液を15℃に制御することとなった。

 培養液に投げ込みクーラーをいれれば設定温度は実現できたかと思う。技術研究とするなら、熱供給側(貯雪→雪冷水循環)と栽培装置側(室内温度や培養液循環)の双方が温度管理できる構造物であることが技術の鍵である。「雪で冷却」はローテクであり、「雪で冷えるのは当たり前」の発想もあり、研究費獲得も容易ではない。そのローテクを実現する環境にも考慮いただきたい。

 最後に環境で一言。自然エネルギーでの農業生産に関心をもつ学生が多い。なぜ実現できないのだろうか?原子力依存の政策にも問題がある。「自然エネは不安定か」はもちろんそうである。自然に依拠しているから。技術的にまだまだアイディアや知恵が必要です。そして自然エネ活用を動かす社会や組織が必要である。前述の研究では、技術だけでは自然エネ活用はできないと実感した。自然エネを使う社会をどうつくるか? 初期投資の確保、自然エネ活用事業の経営、利潤分配等の課題があり、この「環境起学」が重要。熱心な学生がいるが外部資金が不充分で、研究費をかなり投入した。退職までには赤字解消を申し添える。


養液栽培でのチコリー生産

地下雪室への雪の追加