Newsletter #19-3 北方生物圏フィールド科学センターへの要望

2018年6月13日

大学院農学研究院 研究院長 横田 篤(センター外運営委員)

 私の専門は農芸化学の応用微生物学で、学生時代を含めこれまで40年近く専ら実験室におりましたので、フィールド科学センターとは接点がありませんでした。しかし農学研究院長として3年前からセンター外運営委員となり、漸くセンターとの関わりができました。そこで運営委員会での経験と農学研究院や北大の運営面からの要望を述べてみたいと思います。
 運営会議に出席して初めて知り印象的であったことは、センターの各施設が各領域の学内外の研究者に利用されているだけでなく、文科省教育関係共同利用拠点として学外や海外からも学生を受入れ、フィールド科学に強みのある北大の教育研究に有効利用されていることでした。一方で、組織再編により2001年にセンターが誕生し各領域が一つの組織にまとまった意義を踏まえた今後の展望についての議論が必要ではないかと感じました。これは逆に言えばセンター発足時に農学部から農場、牧場、演習林、植物園と一挙に4つもの附属施設が切り離されたことの教育研究面におけるデメリットをどうしても考えてしまうからです。
 次に本論として北大の運営面から見た要望です。そもそも演習林や農場は維持資金としての基本財産であり、その運用(経営)収入は札幌農学校や北海道帝国大学の経常的な運営財源でした。秋林ら(北大演研報 54(2), 273-298 (1997))は、例えば昭和初期に雨龍地方演習林の森林売却益によって理学部創設費(昭和2~5年)の半分が賄われ(現在博物館となっている旧理学部の建物新営費の70%)、他にも医学部附属病院拡張費(昭和元〜9年)、農学部の改築(含現在の本館新営)費(昭和7~12年)の大部分が支弁され、これが農学校から帝国大学への昇格やその後の総合大学化の決め手になったと述べています。国の財政が逼迫する中このような自己資金の有無は大学運営に決定的に重要であったため、当時の帝国大学は演習林の拡充に努めました。中でも北大の演習林は広大で現在でも国立大学の全演習林面積の1/2、世界の大学演習林としても最大の面積を誇っています。残念ながら現在は過去の過度な伐採により森林が回復せず、研究林の収益はごく僅かと聞いています。
 一方、世界一の広大な面積を生かしてカーボンオフセットの仕組みを導入すれば、伐採によらずに持続的な収益をあげることが可能との試算があります。法人化による財政難に苦しむ今こそ演習林設立の原点に立ち返り、全学の経営に貢献する時ではないでしょうか。センターの理念としての「持続的な生物生産」にも合致し、緑のスクールカラーを持つ北大らしい先進的な取組みとして世間からも評価されるでしょう。この取組みは過去に何度か検討されていると聞きますが、この機会に是非推進し実現していただきたいと考えます。
 フィールド研究に従事していない素人が勝手なことを申し上げました。ご無礼や私の思い違いがあれば指摘いただき、ご容赦とご教示を乞うものです。