2025年9月12日~15日、岐阜大学で「日本畜産学会第133回大会」が行われました。今回、帯広畜産大学の宮田あゆ氏・口田圭吾氏は、人工知能(AI)を活用した枝肉単価推定に関する研究成果を発表しました。


本研究では、肉牛生産において最も重要な指標のひとつである「枝肉単価」を、枝肉横断面画像から推定する可能性を検討。2022年に北海道内の市場で取引された約2,800頭分の枝肉データをもとに、画像情報と格付情報(8形質)をAIモデル「MobileNet」に供して分析を行いました。
その結果、横断面画像のみでも高い精度で単価を予測できることが判明。さらに格付情報を組み合わせることで、平均絶対誤差(MAE)が約5円/kg改善されるなど、AIによる客観的評価の有効性が示されました。
この研究は、牛肉流通の未来を変える「牛肉デジタルロジスティクス構想」の中核を担うものです。従来の枝肉評価は熟練者の目視に依存し、生産者や購買者が現地で確認する必要がありましたが、AIによる画像解析とクラウド管理を導入することで、遠隔地からでも正確な判断が可能になります。
今回このプロジェクトでも特に注目しているのが、北海道の自然環境を活かした放牧牛への応用です。放牧牛は赤身中心の健康的な肉質を持ちながら、従来の「サシ重視」の評価基準では不利になりがちです。本構想では、赤身率や筋肉構造などをAIで定量化し、放牧牛の本来の価値を正しく評価・流通させる仕組みを構築していきます。
今後は、枝肉外貌や瑕疵画像なども含めたマルチモーダル解析を進め、より高精度な単価推定と品質評価を実現。さらに、全国の理解ある購買者と直接つながるオンライン取引モデルを展開することで、地域の特色ある牛肉を持続可能なかたちで届けることを目指しています。
このように、AI技術を活用した枝肉画像解析は、牛肉の流通をより公平に、効率的に、そして魅力的に変えていく可能性を秘めています。帯広畜産大学の挑戦は、私たちの食卓に新しい価値をもたらす第一歩となるかもしれません。


