――奥州市「牛の博物館」を訪問しました

2026年8月22日、北海道大学COI-NEXT「次世代和牛生産システム構築拠点」の研究課題4に参画する内田義崇先生と、北海道大学大学院文学研究院で博物館学を専門とする卓彦伶先生が、岩手県奥州市の「牛の博物館」を訪問しました。

今回の訪問では、牛を専門に扱う博物館の展示や教育活動を視察し、牛と人との歴史や地域文化、畜産との関わりについて学ぶとともに、今後の研究成果の社会発信や地域連携の可能性について、学芸員の館長補佐と意見交換を行いました。

後藤先生の寄稿をきっかけに、牛の博物館へ

今回の訪問に先立ち、8月20日付で、牛の博物館の刊行物「牛の博物館だより」に、本拠点のプロジェクトリーダーである後藤貴文先生の寄稿「草資源からおいしい和牛肉を生産する方法を開発したい?」が掲載されました。

●牛の博物館 機関紙 No.67 令和8年8月20日発行 https://www.city.oshu.iwate.jp/section/ushi/05_kikansi/archives/67.pdf

寄稿では、牛本来の能力を活かした草資源の利用を軸に、放牧を基盤とした和牛生産、代謝プログラミング、エピジェネティクス、スマート放牧など、本拠点が取り組む研究を紹介しています。さらに、植物資源の有効利用による食料安全保障や環境保全、地方創生への貢献など、次世代の畜産が地域や社会に果たす役割についても触れています。

その2日後に行われた今回の訪問では、こうした研究を社会へ伝えていく上で、博物館が持つ役割についても考える機会となりました。

「牛」を、生産だけではなく地域の歴史や文化から捉える

牛の博物館は、「牛と人との共存を探り、生命・自然・人間を知る」をテーマに、生き物としての牛、人との関わりの中の牛、産業としての牛という3つの視点から展示を行っています。また、講演会や体験教室などの教育普及活動、調査研究活動にも取り組んでいます。

今回見学した常設展示や企画展示「運ぶ―畜力が物流を支えた時代―」では、牛の生態や品種だけでなく、農耕や運搬を支えてきた牛と人との関係、畜産、食文化、地域の暮らしなどを知ることができました。

特に印象的だったのは、牛を単なる「生産物」や「産業」として扱うのではなく、地域の歴史や人々の暮らし、文化の中に位置づけている点です。

和牛生産の現在は、長年にわたる生産者の営みや地域の産業、食文化などの積み重ねの上にあります。これからの和牛生産を考える際にも、科学技術だけではなく、こうした背景を含めて捉えることが重要だと感じました。

研究成果を「社会との対話」につなげる

COI-NEXTが目指す次世代和牛生産システムを社会に実装していくためには、新しい生産技術や環境負荷低減の成果を発信するだけではなく、「これからの畜産をどのようにしていくのか」を地域の人々や消費者と一緒に考える機会も必要です。

牛の博物館では、展示だけでなく、うし学講座、座談会、体験イベント、移動博物館など、さまざまな形で人々が牛や地域について学び、考える機会がつくられています。

こうした活動は、研究成果を一方的に「伝える」のではなく、地域の人々が知り、感じ、対話する場をつくるという点で、COI-NEXTの今後の社会実装を考える上でも参考になります。

また、今回訪問した卓先生は、博物館学の立場から、博物館の地域連携や市民協働、博物館が地域社会にもたらす価値について研究しています。

研究者が研究成果を発信するだけではなく、博物館などの文化施設を介して地域の知識や経験と結びつけることで、新たな学びや対話が生まれる可能性があります。

白老での地域共創へ

この視点は、COI-NEXTが白老町で進める地域共創ともつながります。

本拠点では、研究者や地域住民、企業、自治体などが集まり、地域の資源や課題を共有しながら、新しい価値を生み出していく「ボーディングプレイス」の形成を目指しています。

そのためには、地域にある産業や食、自然、歴史、文化などを研究と結びつけ、人が集まり、学び、対話できる場をつくっていくことが重要です。

牛の博物館の取り組みからは、「博物館」という施設そのものだけではなく、地域にある知識や記憶を集め、それを次の世代につなぎ、人と人との交流を生み出していく「場」としての役割についても学ぶことができました。

今後は、牛の博物館との情報交換を続けながら、COI-NEXTの研究成果と博物館が持つ資料・展示・教育活動を組み合わせたワークショップや小規模展示など、新たな連携の可能性も検討していきます。

「牛」を研究することから、「牛と人」「牛と地域」「牛と自然」へ。

そして、そこから次世代の畜産や地域の未来を考える。

今回の牛の博物館への訪問は、研究成果を社会へ届けるだけでなく、地域との対話から新たな価値を生み出していく、COI-NEXTの地域共創のあり方を考える機会となりました。