
―生命科学とデジタル技術で畜産の未来を変革する研究拠点へ―
北海道大学が代表機関として推進する「次世代和牛生産システム構築拠点」(プロジェクトリーダー:北海道大学北方生物圏フィールド科学センター 教授 後藤貴文)が、このたび科学技術振興機構(JST)の「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」地域共創分野において、育成型から本格型拠点へ昇格採択されました。
本拠点は、白老町を主なフィールドとして、北海道、株式会社敷島ファームをはじめとする産官学金の参画機関と連携し、持続可能な畜産業と地域社会の実現を目指す研究開発と社会実装を進めてきました。育成型期間では、科学的研究と地域との共創を両輪として活動を展開し、拠点ビジョンの具体化と研究成果の蓄積を進めてきました。これらの取り組みが高く評価され、本格型拠点として新たな段階へ進むこととなりました。
世界の畜産が直面する大きな転換点
世界の食料生産は現在、大きな転換期を迎えています。
人口増加に伴う食料需要の拡大に加え、気候変動への対応、環境負荷の低減、持続可能な農業への転換など、畜産を取り巻く課題は急速に複雑化しています。畜産由来の環境負荷や資源利用が国際的な議論の対象となる一方で、持続可能なタンパク源としての畜産の役割も改めて注目されています。
日本の和牛産業もまた、世界的なブランド価値を確立する一方で、輸入飼料への依存や長期肥育を前提とした生産体系、担い手不足などの構造的課題に直面しています。さらに、環境配慮型の食料生産やエシカル消費への関心が高まる中で、畜産の持続可能性を科学的に再構築することが求められています。
こうした課題に対し、北海道大学の「次世代和牛生産システム構築拠点」は、生命科学とデジタル技術を融合した新しい発想から、持続可能な畜産の未来像を提示する研究拠点として研究を進めてきました。
生命科学から生まれた「代謝プログラミング」
本拠点の研究の中核を担うのが、「代謝プログラミング」と呼ばれる生命科学の研究成果です。
胎児期や初期成長期の栄養や環境条件が、その後の代謝や健康、生産性に長期的な影響を与えるという生命現象に着目し、家畜の能力を根本から引き出す新しい生産技術として研究を進めてきました。
育成型期間では、この代謝プログラミングを和牛生産へ応用する研究を推進し、肉質の改善に関する重要な科学的知見を蓄積してきました。これは従来の畜産のように飼養管理を改善するだけではなく、生命の仕組みに基づいて生産性や肉質を科学的に設計するという新しいアプローチです。家畜生産の基盤原理に迫るこの研究は、畜産技術の新しい可能性を切り拓くものとして期待されています。
スマート放牧による次世代和牛生産
本拠点では、この生命科学に基づく研究成果に、センサー技術やICTを活用したスマート放牧管理技術を組み合わせる研究を進めてきました。
放牧環境において牛の行動や健康状態をデータとして把握しながら、個体ごとの特性を活かした生産管理を実現することで、環境と調和した新しい畜産システムの可能性を示してきました。
本格型期間では、代謝プログラミングとスマート放牧管理技術をさらに高度に融合し、グラスフェッド和牛の生産を核とした次世代和牛生産システムを構築します。地域の自然資源を活かしながら環境負荷の低減と生産価値の向上を両立する持続可能な畜産モデルの確立を目指します。
地域と共創する循環型畜産モデル
本拠点は、研究成果を地域社会と結びつける共創型研究拠点として活動を進めてきました。
育成型期間では、北海道白老町を中心に、畜産事業者、自治体、企業、研究機関など多様な主体が連携し、地域資源を活かした循環型畜産モデルの構想を具体化してきました。さらに、経済分析やビジネスモデルの検討を含む推進体制を強化し、研究開発成果を社会実装へつなげる基盤を整備してきました。
本格型期間では、これらの成果を基盤として、循環型畜産モデルの社会実装を本格的に推進します。研究開発、産業化、人材育成を一体的に進めながら、畜産を核とした新しい地域産業の形成を目指します。
デジタルネイティブ世代が担う未来の食と農
本格型拠点では、新たな地域拠点ビジョンとして
「デジタルネイティブ世代が先導する“食の尊さを未来へつなぐ循環社会”の創造 ― ウシと紡ぐ地球と命の絆 ―」を掲げます。
デジタル技術とともに育った次世代が中心となり、先端生物科学とスマート農業技術を融合した次世代型農業モデルを構築します。安全で持続可能な食料生産を実現するとともに、環境・循環・アグリビジネスを横断する実践型教育を展開します。
また、農業者、地域住民、外部人材が交流するコミュニティ拠点「ボーディングプレイス」を形成し、人材育成と社会実装を加速します。
北海道から世界へ ― 次世代食料生産モデルの創出
本拠点には、帯広畜産大学、九州大学、鹿児島大学、慶應義塾大学、などの大学をはじめ、企業、自治体、金融機関など多様な機関が参画しています。産学官金の共創体制のもと、研究開発から社会実装までを一体的に推進する拠点形成を進めてきました。
本格型への移行にあたり、新たに岐阜大学と福岡教育大学が参画機関として加わりました。さらに、これまで幹事自治体として拠点活動を支えてきた白老町に加え、北海道も幹事自治体として参画し、拠点の推進体制は一層充実しました。これにより、生命科学、畜産科学、データ科学など多様な分野の知見を融合した研究開発と社会実装を、より広域的に展開できる基盤が整いました。
本格型期間(2026年4月~2036年3月)では、代謝プログラミングを核とする科学的革新とスマート放牧による環境調和型生産を融合させ、地域と共創しながら循環型畜産業の確立を目指します。
北海道から生まれるこの新しい畜産モデルを、日本各地の畜産地域、さらには世界へと展開し、持続可能な食料生産の新たなモデルとして発信していきます。
北海道大学「次世代和牛生産システム構築拠点」は、生命科学と地域共創の力によって畜産の未来を切り拓き、科学と社会をつなぐ新しい挑戦を進めていきます。