2024年5月から始まった白老町での「クリエイティブキャンプ」は、地域の風土と人の可能性に静かに、しかし確かに火を灯してきました。そして今回、社台地区での開催をもって、この連続企画はひとつの節目を迎えました。
ラストの舞台となったのは、白老町で自ら育てた白老牛を提供している岩崎さんの経営する、おもてなし亭の広々とした屋外BBQスペース。町の内外から23名がこの場に集まりました。

夕暮れの空が深まる中、「宇宙 × 食 × 地域」をテーマに、宇宙生活の実現に情熱を注ぐJAXAの菊池優太さんの言葉が響きました。宇宙と白老町—一見かけ離れた二つの世界が、この夜、不思議な親和性を持って重なり合いました。
会場の中心を彩ったのは、宇宙での栽培候補である「大豆」から生まれた味噌ラーメン。北海道の誇り「紅一点みそ」で知られる岩田醸造さんの協力のもと、今回誕生した白老町発の“宇宙味噌ラーメン”は、白老町の人々と力を合わせて作り上げた、心温まる一杯となりました。
縁日のような柔らかな灯りの中、子どもたちの笑顔が輝き、湯気の立つラーメンを囲みながら、参加者たちは宇宙と地域の意外な共通点に耳を傾けました。今回のイベントは、子どもたちにも楽しんでもらい、世代を超えて笑顔があふれる、暮らしの可能性を広げる特別な時間となりました。
月面と白老、重なり合う未来図
菊池さんが語ったのは、「月面にコミュニティを築くためには、限られた資源の中で循環と共存をどう実現するか」という問いでした。
その視点は、資源も人も減少し続ける地方の現実と、深く重なります。水、食、エネルギー、インフラ、そして「人のつながり」。これらをどう維持し、どう育てていくのか――それは空想ではなく、まさに私たちが今、直面している課題なのです。
「気づき」を引き継ぐ場としてのキャンプ
このキャンプの真の目的は、何かの知識を“学ぶ”ことではありません。
むしろ、何かを“感じる”こと。言葉にならない違和感、なにげない会話の中での小さな発見。
そして、参加者の多くが口にしたのは、「このまちには、まだ何かができる」という、確かな希望の予感。

「和牛」から広がる未来構築プロジェクト
北海道大学が主導するCOI-NEXT「次世代和牛生産システム構築拠点プロジェクト」は、単に牛を育てるだけの取り組みではありません。
それは、「地域の未来を構想する」ための共有プラットフォームであり、食と文化を結び直し、外の世界とつなぐ回路でもあります。
たとえば、宇宙の視点で和牛を考えること――
以前なら突飛に思えたそんな発想すら、今ではごく自然に、この町の延長線上にあるのです。
終わりではなく、「はじまりの区切り」
全3回のイベントは、確かに完了しました。けれども、それは物語の終幕ではありません。
むしろ、次の章の静かなプロローグ。
今回もプロジェクトリーダーである後藤貴文先生が現地に足を運び、地域の方々と直接語り合う姿がありました。その光景は、研究者が「地域と共にある」ことの意味を、強く印象づけました。

地域を「創造し続ける」場へ
このキャンプは、アート作品や成果物を生み出すためのものではありません。
それは、地域のあり方を、もう一度“自分の言葉”で語ってみること。
他者と対話しながら、少しずつ未来の形を想像してみること。
白老町に芽吹き始めたこの営みは、「創造とは、感じることから始まる」ということを、私たちにそっと教えてくれています。
気がつけば、私たちの知らないところで、小さな灯のような動きが生まれていました。これまでのイベントに参加してくれた白老町の有志たち、外からこの町に希望を託して講演してくれた方々、そして「この町をもっと良くしたい」「何かを始めたい」と心の奥で願っていた人たちが、このプロジェクトをきっかけに・・・自然と引き寄せられるように集まり始めているそうです。
今、確かに――静かだけれど力強く、白老の未来へとつながる新しい一歩が動き出しています。