5月23日(金)北海道白老町虎杖浜の静かな海辺に佇む観音寺に、人々が集まりました。

ここで行われたのは、北海道大学COI-NEXT「次世代和牛生産システム構築拠点」のイベント。だが、それは単なる研究開発の発表ではなく、もっと根源的な問い、「食の大切さ」「地域の魅力に気づいてもらい」、「未来に何を残すべきか」に向き合う場。

集まったのは、町の人たち、そして北海道外からの36名の参加者。

今回のミニイベントの特別ゲストである宮崎県小林市のシェフ、地井潤さん。地井さんは、日本大使公邸の料理人として、フランスやオーストリア、スイスで腕をふるい、優秀公邸料理長として外務大臣表彰を受けた経歴を持ちます。

現在は小林市で「Chef Patronage Programme(シェフ パトロナージュ プログラム)」を牽引し、Kokoya de kobayashiを拠点に、地元の食材を使った料理の提供や、生産者へのアドバイス、食育、ブランド化などに取り組んでいる方。そんな地井さんに、これまでの経験から食の大切さについてお話していただきました。

これまで、火を扱い、水を選び、素材と向き合ってきた時間。

「一皿の料理には、その土地の自然も、文化も、人も、生きている」“食”を通じた共創の可能性。

白老の豊かな海、山、牛、そして人々――。この町にも確かに、語るべき「食」があります。

今回は地域で“何かをやる”とはどういうことか、これまでの経験から机上の空論ではない「実感」から参加者にとっての「気づき」はむしろ深まったように思います。

白老町の新たな気づき~

イベントの翌日、私たちは白老町とコラボできそうな食材を探しました。すると、これまで気づかなかった白老の表情が見えてきました。

たとえば、虎杖浜のたらこ。粒がしっかりとしていて、口の中でふわっと広がる塩気と旨味は、この土地ならではの味わいです。そして、新鮮なホタテやツブなどの海産物。冷たい海が育んだその恵みは、食材というより「白老の物語」そのもの。

また、白老町は太平洋に面した自然豊かな土地で、新鮮な海の幸にも恵まれ、肉厚で甘みのあるホッキ貝や、刺身でも楽しめる高級魚のマツカワガレイなど、さまざまな海産物が水揚げされます。白老の海が育んだこれらの恵みは、地域の食文化を支えるとともに、地元の食卓だけでなく観光客にも人気で、さまざまな料理として親しまれています。

そしてまた、倶多楽湖の水の美しさにも心を奪われます。透明度の高い湖水は、山々と空をそのまま映し込み、倶多楽湖からの伏流水の湧き出る親水公園のカムイワッカの水(神の水)は、その冷たさとまろやかな澄んだ水に、この地の自然の豊かさを感じました。

町のあちこちにある素材や風景――それらは、ただの「もの」ではなく、人の営みと土地の記憶が重なった「語る力」を持っています。                                                                

「ここには、まだ伝えきれていない宝がある」私たちはそう感じています。

ひとりではなく、ともに・・・

町の人たちも、このイベントをきっかけに少しずつ変わり始めています。

そして、白老町にはすでに地域のこれからを真剣に見つめ、行動している人たちもいます。さらに町外からも、「本気で関わりたい」という想いを持つ人々が、少しずつ集まり始めています。

「食を通じて、白老の魅力に気づいてもらいたい」「地域という舞台で、自ら創造的に動ける仲間と出会いたい」「白老を好きになって、一緒に町を元気にしたい」・・・そんな人たちが出逢える場となってほしい。

白老を変えるのは、誰か大きな力ではない。それは、日々の食卓を囲む私たち一人ひとりが、自分の町に誇りを持つことから始まります。

そして、火を灯すのは、たった一皿の料理かもしれません。一口で感じる、土地の力と人の想い。食の共創の可能性・・・それが町の未来を変えるきっかけになるかもしれません。