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北海道大学北方生物圏フィールド科学センター水圏ステーション 厚岸臨海実験所

研究活動

概略

北大厚岸臨海実験所では、近年、海洋生態学と発生生物学の研究が実験所の教員を中心として行われてきた。 また、国内、国外の研究者が例年数十人、延べ1000人日程度来所・滞在し、海洋生物学はもとより、陸上動植物の生態学、地質学、古生物学など多方面の研究が行なわれている。

生態学的研究としては、厚岸湖・厚岸湾の生態系の研究や、海草藻場の群集生態学の研究が実験所に所属した教員・学生や外来の研究者によって行われてきた。 また、海鳥・水鳥の生態学研究も本実験所で行われた特色ある研究の一つとなっている。海産動物を材料とした発生生物学研究としては、ヒトデやウニ卵を材料とした卵成熟など 細胞分裂周期調節機構の研究や受精機構の研究が所内教員により行われている。また、本実験所から供給されるエゾバフンウニは、北大や他大学においてウニ精子の運動機構や発生機構の研究、 あるいは発生学用の学生実習の材料として役立てられている。

研究課題の紹介(一部)

アマモ場の生態学(仲岡)

アマモなど海に生える種子植物(単子葉植物)を「海草(うみくさ)」と言います。海草は、コンブやワカメなどの海藻(かいそう) よりも、 陸上植物に近い仲間です。陸上に進出した後、再び海に還っていった点で、クジラやイルカと同様の進化の歴史を 持っています。 沿岸海域で海草類がまとまって生えているをアマモ場(海草藻場)といいます。アマモ場は、生産性が高く、 かつ多様な動植物の生息場所となっていることから、 沿岸生態系において非常に重要な役割を持っていると考えられています。 私たちは、北海道から東南アジアのアマモ場を対象に、海草およびアマモ場に生息する多様な生物群集の生産性、 個体群動態、 種間関係、食物網、生物多様性などに関する研究を行っています。

その他,仲岡の研究課題は仲岡研究室のwebpageにて紹介しています(こちら)。

ヒトデを材料とした卵成熟・初期発生卵割期における細胞分裂周期の制御因子の研究(佐野)

ヒトデ卵を主材料として、卵成熟を中心とした細胞分裂の周期が制御される機構について研究している。

卵成熟を誘起するホルモンである「1-メチルアデニン (1-methyladenine)」が「未成熟卵」の細胞膜に作用すると、 やがて卵内に「分裂期促進因子 (M-phose promoting factor, MPF)」が出現し、この因子が成熟に必要な「減数分裂」を再開させ、 正常な受精を可能にするとともに、第一極体と第二極体を放出させて、発生が可能な「成熟卵」へと変化させる。

この「分裂期促進因子」は、酵母からヒトに至る細胞においても共通して存在し、細胞分裂周期の「分裂期」を誘起する動物界に共通する中心的な因子として働くことが分かっている。

私達は、この「分裂期促進因子」が「ヒストンH1キナーゼ」活性を有する「蛋白質をリン酸化する酵素」であることを示唆する結果を動物卵母細胞において世界で最初に示した。 この「分裂期促進因子」は、cdc2遺伝子産物*とサイクリン蛋白質(cyclin B)*からなる「cdc2キナーゼ」であり、「ヒストンH1キナーゼ」活性を有する「蛋白質リン酸化酵素」でもあることは、 その後世界数カ国のグループ*により解明されている。

現在、私達は、「1-メチルアデニン」が作用後、卵内において活性ある「分裂期促進因子=cdc2キナーゼ」が出現してくるまでの過程で、 「分裂期促進因子=cdc2キナーゼ」の活性化型の形成に関与する因子の解明を目差し、独自に見いだした「cdc2キナーゼの無細胞の活性化系」を活用しつつ解析を進めている。

*注:cdc2遺伝子を分裂酵母を用いて見いだしたP. Nurse博士とサイクリン蛋白質をウニ卵を用いて見いだしたT. Hunt博士は、2001年ノーベル医学生理学賞を受賞している。