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3.まとめ

 史料上に現れる農学部博物館収蔵絵画資料のうち、現時点で照合確認できるものはのべ280点、実数は160点になる。今回調査した収蔵絵画資料の点数229点のおよそ7割が標本台帳以外の史料で確認できたことになる。
 また、収蔵資料の約半数が開拓使によって製作・採集されたものであったことも明らかとなった。開拓使が東京仮博物場に絵画資料の担当者を置いていたことは、1877(明治10)年「仮博物場所務人名」xxに記された「画掛 牧野數江」という人物の存在から明らかであり、その活動を窺うためにもこれらは貴重な資料として位置付けなければならない。彼が1876(明治9)年頃、開拓使はブラキストンから鳥類標本を借用し、写生させていたことが残された史料xxiから判明するが、当館収蔵資料にはその時代に製作されたとみなすことができるものはない。ブラキストン標本を写生した絵画資料が現在どこに保管されているのか、当館収蔵資料の多くが作製された1880(明治13)年以降に、どのような資料を用いて写生したのか、どのような目的で製作したのか、比較検討しなければならない点は多い。牧野の名前が残された資料に接する機会にはいまだ恵まれないが、函館博物場(現市立函館博物館)に残される開拓使関連の資料、道立函館中部高等学校に残される1885(明治18)年製作の絵画資料などの調査を通じて、何らかの情報を加えることができるかもしれない。今後の課題として挙げておく。
以上、北海道大学農学部博物館絵画資料を、文献史料を通じて検討し、標本台帳に記載される情報を追加・整理した。この結果が今後の博物館利用者の調査の参考になれば幸いである。

 




i 本報告では文献資料を史料と表記し、博物館の標本資料として登録しているものを資料と表記する。
ii 沖野慎二「北海道大学農学部博物館のアイヌ民族資料(上)」(『北海道立アイヌ民族文化研究センター研究紀要』第5号、1999年)。
iii 現在台帳に登録されている標本数はおよそ46000点であるが、絵画資料の標本番号が7000番台、30000番台など古いものになっている。この理由は次の事情による。1999年に標本台帳を調査した際に台帳に相当数の空欄があることが判明した。これらの空欄は所蔵資料の実数を確認する上で障害になること、現在構築中のデータベース登録の上でも処理を煩雑にするものであったため、空欄を埋める形で標本の新規登録を行うことを決定した。標本の歴史的由来や納入順を管理する上ではこのような処理が適切であるとはいえないが、現行の台帳自体がすでにそのような形で運用されていないこと、1999年段階の台帳の状況を保存した上で、登録を行うという手順の上で登録作業を開始したものである。そのため、同じ1999年に登録したものであっても標本番号が大きく離れることとなったものである。
iv 『明治大正図誌』5、北海道(1978年、筑摩書房)には「明治六年札幌市外之真景」【39563】(以下本稿で【 】で括った数字は現在の標本番号である)をはじめ、数点の農学部博物館収蔵資料が掲載されている。
v 「図・表・地」の記号が記入されているラベルは絵画資料以外にも添付されており、その利用年代がおおよそ理解できる。このラベルの付属している資料の採集年代の下限は樹皮縄撚機【11311】などにみる、1958(昭和33)年である。これらのほかには1930年代に名取武光によって発掘された土器に多く添付されており、名取が退官する1968年以前に彼の資料を整理するために作成されたラベルではないかと現在のところ考えている。
vi この経緯は関秀志「明治期における北海道の博物館(2)」(『北海道開拓記念館調査報告』第30号、1991年)に詳しい。
vii 博物場統計表【33222】では明治17年7月から12月までの標本受入状況がわかる。
viii 写真資料は現在整理中であるが、現在収蔵されている写真の多くは昭和に入ってからの写真のようである。明治期の写真の状況などについては不明な点が多い。
ix 北海道立文書館所蔵簿書番号10446号。
x 番号・品名・個数は原史料のまま、備考欄は筆者が絵画資料の判別を容易にするために鳥名などを現在利用している名称にしたものである。なお、当時の史料表記に不適切な表記が含まれているが、書類作製当時の表記のまま掲載した。以下の史料においても同様である。
xi 北海道立文書館所蔵簿書番号8532号。
xii シラサギという種名は存在しない。
xiii 【33159】は「図画3」と記載されていたものと思われるが、当該ラベルが剥がれており現時点で不明である。
xiv この点についても田島氏から教示を受けた。
xv 番号欄は筆者の整理番号であり、原史料に記載されているものではない。
xvi ・-3の「鮭」【33340】は、現時点で高橋由一の筆によるものとは評価していない。
xvii ・-5については額裏面に寄贈日が記載されており、1906(明治39)年の寄贈であることがわかる。
xviii なお、今回この資料の所在が明らかとなったことから、農学部の図書として改めて登録し、図書資料としての位置付けも復活することになった。
xix 寄贈者の元田茂氏は1933(昭和8)年に農学部を卒業し、1971(昭和46)年まで農学部・水産学部の教官であった元田氏と考えられ、名取と同時期に活躍した人物である。
xx 北海道立文書館所蔵簿書番号2985号。
xxi 前掲注(20)。

 

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